処置 -キオク- 参
『まだそっちに到着していない払い屋が何人かいるけど、既に到着した数人で後処理は出来るってさ』
「既に到着してるのって確か五、六人ですよね。そんな少ない人数で出来るモンなんですか?」
『不巫怨口女が街に出ていたら面倒になっていたけど、幸いにも高校の敷地内で留めておく事が出来たからね。それも、被害者である生徒と教師は揃って気を失っていたのも大きいよ。お陰で不巫怨口女を目撃した者は殆んどいない』
「そうなんすか?」
『君の友人達の証言だよ。化物を見たって騒ぎは無かったし、気付けば皆が次々と倒れていったんだそうだ』
横田に言われて思い返してみると、供助が校内で太一を見つけた時、事態が解らず焦っていたのを覚えている。
生徒や教師が気を失う前に不巫怨口女を見ていたのなら、供助とあった時にその事を話してきた筈だ。それが無かったと言う事はそういう事なのだろう。
「ま、面倒な事は任せますよ。俺は殴る蹴るしか能が無いんで」
『それで今回は助けられたんだ。馬鹿に出来んもんよ、君のその能は』
「俺だけじゃねぇですよ。俺以上に猫又が身ィ削って頑張ってくれたのがデカイすね」
「全くだの。身を削り過ぎて猫になってしまった」
「そりゃ元からだろうが」
供助の隣で会話を聞いていた猫又が反応し、鼻で息をして前足の上に顎を乗せる。
傷の手当てを受けたのもあり、冗談を言える位には回復したようだ。
『供助君は自覚していないみたいだけど、結構凄い事をしたのよ。君達は』
「そうなんすか? そりゃまぁ、だいぶ骨は折れましたけど」
『本来ならドンと報酬を与えたい所なんだけどね……残念ながら、今回は祓い屋に手柄を持って行かれた。報酬はありませんって内容のメールが依頼主から来たよ』
「今思い出してもムカッ腹ぁ立つが、アイツが居なかったら危なかったかも知れねぇ。祓い屋が出てこなきゃ俺等が倒していた、と言い切れねぇのがまた腹が立つ」
『そうやって自分の未熟さを鑑みる事が出来るなら、君はまだまだ強くなれるよ』
「そのつもりですよ。それで七篠の事ですけど……あれから何か分かりました?」
『うーん、まぁ、ね。調べれば調べるほど、七篠って人物は祓い屋の中でも異端だって話しか入ってこないのよ』
「って言うのは?」
『誰かと協力する事も、徒党を組む事もなく、相棒を付ける事もない。自由気ままに自分の利益だけを求める行動しか取らない……が、実力はある。受けた依頼を失敗した事は無く、必ず熟なすそうだ』
「奴の行動は気に入らねぇが……だいぶ弱っていたとは言え、あの不巫怨口女を軽くあしらっていた。腕はかなり立つってのが正直な感想だ」
札や結界などの術は一切使わず、数本の小さい木の針だけで不巫怨口女の自由を奪っていた。それだけで七篠の腕がかなりのものだと分かってしまう。
加えて、あの異常な雰囲気を醸し出していた注連縄。あれは普通の神具じゃない。
「そういえば七篠が使っていた注連縄、何か分かりましたか?」
『いーんや、なーんも。ウチにある資料を漁ってみたけど、それらしいのは見つからなかったよ。もしかしたら注連縄に似た、もっと別の何かかもしれないねぇ』
「別の何か、っすか」
『この世には人智から外れた代物が存在するからね。見た目や形だけでは想像もつかない物だったりするのよ』
「じゃあ七篠が使っていた注連縄も、注連縄とは全く別の代物……」
『あくまでその可能性もある、って話よ。知り合いの伝手を使って、もうちょい広く調べてみるよ』
供助は素手を基本とするスタイルで払い屋家業を行っており、神具や霊具といった知識には疎い。
餅は餅屋。そういう事はそういう事に詳しい者に任せるのが一番効率がいい。




