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      処置 -キオク- 弐

「だが、供助が言った通りの処置が行われるとなれば……」

「他の生徒と一緒に、太一達も記憶を変えられるだろうな」

「やはり、そうなるか」

「これまでの経緯(いきさつ)の説明ついでに、不巫怨口女との戦闘で俺を何度か助けてくれたってのを責任者に話してきた。協力者って事である程度は融通利かせてくれりゃいいんだが……」


 供助も段差に腰掛け、見上げる空は月が淡い光を降らせていた。


「あいつ等がどうするかは分からねぇが、怖ぇ記憶は忘れた方がいいだろうよ」

「そうさの。奇形奇怪な妖怪や幽霊を見慣れた私達ならば何ともないが、霊感もない一般人には不巫怨口女の姿は常軌を逸したモノだ。忘れられるなら忘れた方がいいだろうの」


 怖いモノを見たのも、苦しい思いをしたのも。そんな記憶は曖昧にして、夢だったんだと思えた方がいい。


「っと、電話だ」


 供助のズボンのポケットから音楽が鳴り、スマフォの画面がジャージの生地から透けて光る。

 取り出して着信画面を確認すると、供助が予想していた通りの人物からの電話であった。


「もしもし」

『あ、もしもし、供助君? いやー、すまんね。本当はもっと早く電話をしたかったんだけど、色々とゴタついてて出来なかったのよ』


 言わずもがな、電話の相手は供助の上司である横田であった。


「いえ、こっちもこっちで到着した責任者から話を聞かれてましたから。俺もさっき一息ついたところです」

『その責任者からさっき電話が来て、簡単にだけど話を聞いたよ。大変だったね』

「あぁ良かった。同じ事を二度も話さなきゃならねぇと面倒臭いと思ってたんすけど、その必要は無いみたいですね」

『細い所はあとでたーくさんの書類で確認しなきゃならないけどね』


 電話口の先から、横田の憂鬱な気持ちが伝わってくる。


『今回の無理難題を強制させて、さらに危険な目に逢わせてしまい、本当にすまないと思っている』

「いや、俺等は俺等の意思で仕事をしただけっすよ。謝る必要は無いですって」

『君の高校の生徒だけじゃない。校外で結界を張っていた私の部下も、君達が不巫怨口女と戦って妖気の拡大を抑えてくていなかったら命が危なかった』

「効果があるかどうか分からねぇで、他に手がねぇから戦っただけだったが……無理した甲斐があったってもんだ」

『それでも、これだけは言わせて欲しい。供助君と猫又ちゃん、二人に助けられた。ありがとう』


 ありがとう。感謝の言葉。少し前に和歌からも言われた、この言葉。

 こうして払い屋のバイトを始めて、夜な夜な人目の付かない所で依頼をこなし、世間には認知されていない仕事。

 生きる為に両手を握り、稼ぐ為に拳を握り、温かい飯を食う為に……何より、仇を討つ為にこの才能を磨いてきた。

 人に感謝される理由も無いし、褒められるのが目的でもない。全ては自分の為、復讐の為。胸を張って言えるものじゃなかった。

 なのに今日は。今まで言われる事は無く、これからも無いもんだと思っていた言葉を、二度も言われた。


『こまっているひとを、おばけからまもってあげたい!』


 かつて両親に言った、自分の生き方。いつか自分がなりたいと思い描いた、未来の姿。理想の形。

 それに少しだけ。ほんの少しだけなれたんだと、供助は微かに口の両端を緩めた。


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