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      横取 -ハイエナ- 伍

「太一と祥太郎は?」

「まだ動くのは辛いみたいだけど、意識は戻って話せるまで回復してる」

「そうか、良かった……」


 供助は小さく息を吐き出し、安堵する。

 無理をしてまで助けてくれた二人の友人が、そのせいで体力を消費して危ない状況に陥っていた。

 助けてくれた事への感謝もあれば、それ以上に自分が原因で危険な目に逢わせてしまったという罪悪感が強く心に伸し掛っていた。

 だがそれも、二人が死なず無事に気を取り戻した事で胸を撫で下ろした。


「猫又さん、腕から血が……っ!」

「大丈夫、だの。傷自体、は、大したものでは……な、い」


 猫又の腕には小さな穴が空けられ、七篠に付けられた傷口から少量の血が流れ出ていた。

 滴る血を見て和歌が心配し、裸の猫又に着ていたジャージの上着を掛けてやる。


「もう少し経てば増援が来る。その中に救護員も居る筈だ。それまで耐え……」

「いや、すまん。供助……限界だ、の」

「おい、猫又……くっ」


 ぼふんと煙を上げ、猫又の背中に掛けられていたジャージがひらひらと地に落ちた。


「猫又さんが、消え……っ!?」

「安心しろ。猫の姿に戻っただけだ」


 供助が地面に落ちたジャージを捲り上げると、その下に黒猫の姿になった猫又がいた。

 妖力を完全に底を突き、人間の姿を留めておく事も不可能になり、少しでも回復を早める為に元の姿である黒猫に戻った。

 かなりの無理をした反動もあり、猫又は猫の姿になっても苦しそうで呼吸も荒い。だが、もう妖力を消耗する心配は無い。安静にしていれば次第に良くなっていくだろう。


「古々乃木君、さっき話していたあの赤い髪の人は誰なの……?」

「簡単に言やぁ同業者だ。不巫怨口女に止めを刺すのを隠れて待ってたんだとよ。お陰で報酬は貰えねぇでタダ働きだ」

「あんなに古々乃木君と猫又さんが頑張って戦っていたのに……」

「奴に邪魔されたのは腹ぁ立つが……ま、委員長達が死なずに済んだなら充分だ」


 色々とアクシデントはあったが、学校に訪れた危機は去った。張っていた緊張の糸も緩み、供助は溜め息を吐いて前髪を掻きあげる。

 力み、握り、殴りまくった両手。大きく開いてみると、握りっぱなしだった指の関節が痛む。

 戦闘で受けた傷に比べれば屁でもないと、供助は痛みに耐えながら商売道具である軍手を手から外した。


「古々乃木君」

「あん?」


 供助は肌に付いた軍手の網目跡を眺めながら、筋肉が張ったままの指をストレッチしていると。

 隣の和歌から名前を呼ばれ、供助が振り向く。


「私達を助けてくれて……守ってくれて、ありがとう」


 和歌は優しく微笑んで、そう言った。

 ずっと昔、もう何年も前の思い出。花火帰りに助けてくれた、あの時のように。

 自分の身を(てい)し、危険を冒して戦ってくれた幼馴染へ。心からの感謝を口にした。


「……ちっ、疲れ過ぎて余計な事を言っちまった」


 そこで、供助は自分がらしくない事を言ったのに気付き、和歌から目線を外して頭をぶっきらに掻いた。

 委員長達が死なずに済んだだけで充分だ、なんて。普段じゃ決して言わない台詞を漏らしてしまった。

 いつも怠惰感を出して、他人に興味がなさそうな態度。そんな自分がガラにもない事を言ってしまったと、供助は自分の不覚から後悔と気恥かしさに(さいな)まれる。

 だがそれも、供助が通う高校を襲っていた驚異が去り、友人も無事に助ける事が出来た安心と安堵からである。

 少し離れた所で座りながら手を振っている二人の友人が目に入り、供助は小さく笑って。

 なんとか難題を解決できた実感と達成感を噛み締めながら、重く感じる腕を上げて返したのだった。


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