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      横取 -ハイエナ- 肆

「一丁上がり、ってな」


 七篠は地面に落ちた注連縄を見下ろし、完全に目標が消え去ったのを確認する。

 怨念の塊だった妖怪の消滅と共に、辺りに充満していた瘴気も綺麗に無くなった。


「ん?」


 からん。小さな音と一緒に、先程まで不巫怨口女が居た場所に何かが落ちた。

 七篠は注連縄を纏めながら歩き、拾い上げてみるとそれは竹櫛(たけぐし)だった。


「ああ、そう言えば元々はこれに封印されてたんだったか」


 華やかな装飾は無く、黒一色で漆塗りされた小さな竹櫛。

 かなり古い物で所々が剥げ、漆塗りの特徴である光沢は殆んど無い。


「依頼完遂の証拠として貰っとくか。二重依頼を平気でやる依頼主だ、難癖を付けてきて報酬を下げてくる事も考えられる」


 七篠は革ジャンの胸ポケットに竹櫛を仕舞い、入れ替わる形で煙草の箱を取り出した。

 一本の煙草を口に咥え、銀色のジッポで火を着けて煙を楽しみ始める。


「大仕事を終えた後の一服はうまいわー」

「大仕事だぁあ? おいしいトコだけを横取りしただけのクセに、よく言うじゃねぇか」


 自分へ鞭を打ち、重くなった体を引き摺って。供助は七篠へと怒りが籠った言葉を投げる。

 体力も残り僅かで、体中に痛みが走る。それでも供助の眼の鋭さは、眼光は衰えていない。


「言ったろ。今回は二重依頼である以上、早い者勝ちだ。横取りした俺をどうこう言うよりも、それを許した自分の未熟さを恨むんだな」

「あぁ、ここまで自分の馬鹿さを恨んだのは初めてだよ。けどよ、それが誰かを傷付けていい理由にはならねぇな」

「相棒の妖怪ちゃんの事かい? 腕を切り落とされなかっただけでも有り難いと思って欲しいねぇ」


 むしろ気を使ってやったんだと。七篠は肩を竦ませながら、やれやれと呟く。

 他人事のような言動、立ち振る舞い。供助の怒りはさらに煽られていく。

 もし体調が万全の状態だったならば、感情のままに今この場で殴りかかっていただろう。


「っと、無駄話をしてないでさっさとお(いとま)するか。除霊以外の面倒な事は俺の仕事じゃないんでな」


 七篠は注連縄を定位置のベルトのホックに掛け、口に咥えた煙草からは長くなった灰が形を崩した。


「それじゃあな、少年」


 右手をぷらぷらと振り、七篠は校舎裏のフェンスを越えて雑木林の中へと消えていった。

 その場に残された煙草の臭いが鼻を突き、供助は収まらず向け場のない怒りに、ただただ奥歯を噛み締めるしかなかった。


「古々乃木君、猫又さん、大丈夫っ!?」

「委員長……無事じゃあねぇけどまぁ、こうして五体満足だ」


 供助は祓い屋への憤怒を飲み込み、駆け寄ってきた和歌へと振り返る。

 七篠の行いは許せるものでは無いが、今は不巫怨口女を祓えた事を喜ぼう。それだけで充分な結果である。


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