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      横取 -ハイエナ- 参

「イィィィィィィギイィィィィイィィィアアァァァ!!」


 耳を(つんざ)く悲鳴。なんとも言えぬ痛覚を表す絶叫。

 喉に刺さっていた木針は抜け落ち、不巫怨口女は自由になった口から粘りのある赤い液体を飛び散らせる。

 腕、足、肉、骨、皮、髪。七篠が放った注連縄が全身に巻き付き、不巫怨口女の体を締め付けていく。

 ぎちぎち、ぎりぎり、ぎしぎし。注連縄が絞める巨体はまるで焼豚のようで、一切の身動きを許さない。


「五百年も長ったらしく恨み続けるとはご苦労なこった。ま、お陰で俺は儲ける事が出来た訳だが」

「ア、ア、ィ、ィィ……ィ」


 痛々しく高々に上げていた悲鳴も弱まり、虫の息。不巫怨口女は注連縄による締め付けから天を仰ぎ、徐々に衰退していく自身の体。

 七篠は注連縄へとさらに霊力を流し、左手の握る力を強める。そして、右手には木針を一本だけ指に挟んで。


「さ、仕上げと行こうか」


 ひゅ――――。

 風切り音が鳴った直後、次に聞こえたのは短く渇いた音。

 不巫怨口女の額に、七篠が投げた木針が深々と刺さったのが皮切りとなって。


「アアアアアァァァァァァアァァァァァァァアァァァァァァーーーーッ!!」


 不巫怨口女の大きく開けた口から上げられる、絶命の狼煙。

 耳まで裂けた口を天に向け、ほのかに煌めく白い煙を大量に吐き出していく。

 例えるなら許容量を超えて穴の空いた風船の如く。噴水のように白煙を立ち上らせる。


「なんだ、あの白い煙はよ。奴の瘴気とも妖気とも違ぇ」


 供助は宙で広がる白煙を見上げ、不巫怨口女とは似つかわしくない感覚に戸惑いを見せる。


古々乃木(ここのぎ)君っ! 田辺君と大森君が……!」

「太一……祥太郎っ!?」


 後ろから叫ぶように名を呼んでくる和歌の声。

 この白煙が何か影響を及ぼし、二人の状態がさらに悪化したんではないかという不安が生まれ。供助は後方に居る三人の方へと振り返った。


「ん、んん……?」

「あ、れ……ぼく……」


 しかし、供助の不安は懸念で終わる。付き添っていた和歌の隣で、太一と祥太郎が意識を取り戻し始めていたのだ。

 それどころか、ついさっきまで土気色だった顔には血色が戻り、唇にも赤みが見える。


「まさか、あの白い煙は……」

「恐、らく……不巫怨口女が吸い取って、いた、生徒達の生気……だろう、の」

「猫又、無理すんな。大人しく寝てろ」

「ふ、ん……腹立たしい事この上、無い、が……彼奴(きゃつ)が、不巫怨口女を倒した、という、証拠だ、の」


 今にも倒れ込みそうなのを何とか耐え、猫又は苦しそうに息をする。

 限界を超えて妖気を消費し、こうして人間の姿でいるのも辛い状態であろう。


「あれだけ、の、生気を……短時間で妖気に変換、するの、は、まず無理、だの……」

「って事ぁ、借りモンはそのまま持ち主に戻るってんだな」

「完全に、とはいかん、だろうが……それに近い形では、あるはずだの」


 不巫怨口女の口から漏れ出る大量の生気は校舎内へと流れていき、生徒達の元へと戻って行く。


「ア、ア、アァ……」


 吸い取った生気を全て吐き出し、不巫怨口女は天を仰いだまま弱々しい声だけを零す。

 そして、あんなにも強大で強力だった妖気も底を突き。大量の手足はぴくりとも動かなくなった。


「じゃ、お疲れさんのさよならさん」


 軽く。日常会話と変わらない口調。

 七篠が両手で注連縄を強く引き、霊力を流したのを最後に。


「――――――ァ」


 ぼしゅう。そんな音を残して、最大にして最難であった(あやかし)……不巫怨口女は。

 祓い屋の手により、この世から姿を消し去られた。


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