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第六十七話 横取 -ハイエナ- 壱

 比喩では無い。幻覚でも無い。

 猫又が放った篝火が、不巫怨口女を飲み込んでいた火柱が。

 一瞬にして、その巨大な炎の塊が……元から無かったかのように、消えた。消え去った。


「篝火が消えた……!?」


 ついさっき、たった今。ほんの一秒前まで。

 目前で轟々と燃え盛っていた赤い炎はどこにも見当たらない。火柱どころか火の粉すら。一切の痕跡も残さず。

 あんなに赤く照らされていた校舎裏も暗闇だけに戻り、供助と猫又、二人の全てを賭けた一撃は霧のように無となった。


「なん、で……」


 不巫怨口女を燃やし尽くして炎が消失したのか。違う、不巫怨口女は未だ健在。

 体中に黒い焦げを残し、奇声を叫びながらも、まだこの世に姿を留めている。

 猫又の妖力が尽きたのか。それも違う。妖力が尽きての消失ならば、こんな不自然かつ一瞬で消えはしない。もっと余波や余熱がある。

 だとすれば、考えられるは考えたくない可能性。不測の事態、アクシデント、イレギュラー。

 そう、残念ながら悲しくも、供助の考えは正しい。自身にとって良いか悪いかは関係無く、至った答えは当たっていた。



 ――――篝火は消えたのでは無い。消されたのだ。



「して、やられた……!」


 空高く飛んでいた猫又は着地し、膝を崩して苦虫を噛み潰したような表情をさせる。

 声にも激しい怒りが孕み、抑えられない悔しみで強く歯を軋ませていた。


「猫又っ! 一体どうし―――」


 供助が猫又へ駆け寄ると、ある物が目に入って途中で切れる言葉。

 猫又の右腕には、掌ほどの長さをした一本の木針が刺さっていた。


「奴の存在を忘れておった……!」


 額から大粒の汗。眉間に皺。猫又は荒く息をし、忌々しげに言葉を吐く。

 右腕に刺さっていた木針を抜くと、数滴の血が落ちた。


「アアアアァァァアァァァァアァァァアァイィィィィィィィイィイィィィィイィ!!」


 不巫怨口女の絶叫に反応し、供助と猫又は目を向ける。両者の間に立つ、その者に。

 そこに一人の影。一人の商売敵。一人の祓い屋が、いた。


「祓い屋……七篠ッ!」


 黒いニット帽、黒い革ジャン、黒いブーツ。夏らしからぬ服装で身を包んだ、赤毛の男性。

 供助達の商売敵である祓い屋、七篠(ななしの)言平(ことひら)が居た。不巫怨口女の前で煙草の煙を空へと揺蕩(たゆた)わせて。


「イィィィィィィィィイィァアアアアアアアァァァァアァァッ!」

「うっさいなぁ、ちょい黙っとけ」


 奇声、咆哮、絶叫。

 近くで叫びを上げる不巫怨口女の声を不快に感じ、七篠は鬱陶しいと一振りする右手からは。

 猫又の腕に刺さっていた木針と同様の物が投げ飛ばされた。


「アッイィッ!?」


 ――――トッ。微かに聞こえた渇いた音。

 不巫怨口女の叫びは短い悲鳴を漏らし、それを最後に悍ましい発声は止まった。

 喉、胸元、腹。三ヶ所に突き刺さる木針。不巫怨口女の体は小刻みに震え、あれだけ蠢いていた無数の手足も麻痺して動かない。


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