篝火 -サイゴノテ- 陸
「せぇ、のぉ……せぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
大きな掛け声を上げて、和歌は猫又が乗るバットをフルスイングした。
ラクロスと同じ要領で、ステップを踏んでから全身の捻りを使い、上から振りかぶって袈裟切りのように振る投法。
和歌の抜群のコントロールで猫又は空高く飛ばされ、狙い通りに不巫怨口女の真上を取った。
「供助、絶対に上を見るでないのっ!」
「あぁ!? なんだって!?」
「いいから、こっちを見るでないッ!」
不巫怨口女の上空で巻き上がる白煙。そして、白い煙の中から姿を現すは――――全裸の猫又だった。
篝火を撃つには人間の姿でないといけない。しかし、今は少しの妖力でも篝火に回したい。服の具現化する僅かな妖力すら惜しい。
人の命が危険に犯されている状況で、羞恥心など些細なもの。恥ずかしいと思う気持ちがあるならば、それすら篝火と一緒に燃やしてしまえと開き直って。
猫又は一糸まとわぬ姿。だが、しかし、服に代わって身に纏うは熱の衣。
「ぬうぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
供助が稼いでくれた時間で溜めた妖気を右腕、右手に集中させ、凝縮させ……そして、一気に解き放つ。
不可視の力が熱を持ち、熱風を生み、紅蓮の炎へと姿を変える。僅かな月明かりしかなかった校舎裏は、ゆらゆらと揺れる赤い光に包まれる。
手の平に造られた炎球は特大で。あまりの火力、熱量に、猫又自身の右手も無傷では済まない。後から来るであろう反動など頭から外せ。反動で苦しむのは、生きて明日があってこそなのだから。
猫又は今、自身が出来る最善を尽くし、最大の火力を放ち、その特大の火柱を。
「女は度胸だのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
――――不巫怨口女へと浴びせた。
「おおおおおぉぉおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉっ!」
「イイイィイィィィィィィィアアアァアァァァァァアァァァィイイイイッ!」
最大火力。最高威力。後の事など考慮せず、今この瞬間、目の前の敵を倒す事だけを考えた全身全霊の全力全開。
熱は増し、温度も増し、炎が増す。肉と共にその怨念をも一緒に焼き尽くさんと。轟々たる紅炎が燃え盛る。
「これ、で、最後だ……のぉぉぉぉぉぉぉああぁぁぁぁあっ!」
全てを出し切り、力を使い果たさんと。猫又は体内にある妖力を一気に解き放つ。
叫びと同時、咆哮と共に。右手が纏う炎は大きく、熱も高くなり、燃える勢いが増大し。
鱗が生えた長い下半身を持つ不巫怨口女を蛇だとするなら。猫又の篝火はさながら、蛇を頭から喰らい燃やす炎の龍。
空気が燃えて弾ける音は龍の咆哮を連想させ、炎塊を激しく轟かせて、不巫怨口女の巨体を容易く飲み込み――――。
「――――え?」
火柱は、その姿を消した。
まるで蜃気楼のように、一瞬で跡形も無く。




