篝火 -サイゴノテ- 肆
「ちっ、このっ!」
供助は不巫怨口女の手を叩き払おうとするも、腕を掴まれているせいで上手く振れない。
細く血色が悪くても、不巫怨口女の力は強い。供助もその力強さに何度か危ない状況に陥っている。
そうして供助が手こずっていると、不巫怨口女のその腕が一気に短くなり始めた。
「引き寄せられッ……多く伸ばせらんねぇなら近付かせて喰っちまおうってか……!?」
供助は冗談っぽく言うが、冗談では済まない現状。どうにかしようと踏ん張ってみるも、疲労から既に足の踏ん張りは弱い。
いくらか引き寄せられるスピードは落ちたが、それでも完全に止まる事は無く、地面の砂利に長い足跡が作られていく。
「くそっ、この手ェなんとかしねぇとどうにも……!」
しかし、足は地面を滑らせ、腕は掴まれて思うように動かせない。この間にもどんどんと不巫怨口女に近付かされていく。
そして、数秒後。言うなれば、勘。供助が生まれ持った勘の良さが働いた。
腕へと向けていた視線を正面に、不巫怨口女へ戻すとそこには。先ほど宙でうねらせていた二本の腕が、既に供助の眼前まで迫っていた。
「アァァァァァァァハアァァァァァァ!」
今までと変わらない、気持ち悪く不快さを形にした不巫怨口女の声。でもどこか勝ち誇ったような。そんな風に聞こえた。
供助の両手は使えない。両足も同様。対処に使える四肢は全て塞がってしまっている。
「お――――」
体をうつ伏せて回避を試みるか……否。恐らく供助の腕を掴む不巫怨口女の手で起こされるだろう。
ならば横に逸れるか。それも否。同じく不巫怨口女の手に邪魔をされてしまう。
ならば横も下も駄目だと言うのなら。供助は体を後ろへ大きく仰け反らせる。
回避? 違う。 防御? 違う。防ぐ躱すが無理ならば、だったら逆をすればいい。
足りない頭を使って出した答えは、四肢が使えないなら頭を使えばいいと――――。
「らあっ!」
ブチかますは、渾身の頭突き。
さっき不巫怨口女の攻撃を霊力を集中させた腹で弾き返したのと同様、額に霊力を集めて思いっ切り振るう頭撃。
「イィィィィィィィィイイイイィィィイッ!?」
不巫怨口女もこの攻撃には意表を突かれ、驚きと痛みが混合した絶叫を高く上げる。
頭突きされた腕は幾つも関節が増えて地に落ち、引き寄せていた腕も動きを止めた。
「へっ、馬鹿でも頭の使いようはあんだよ……!」
自虐を混じえた台詞を放ち、薄ら笑いを浮かべる供助。
しかし、不巫怨口女の腕を完全に防ぐ事は叶わず、供助の額には裂傷から血が流れていた。
眉間を通って鼻を伝い、顎から赤い液体が滴り落ちる。
「邪魔臭ぇんだよ、この腕ぁよぉぉぉぉぉ!」
血を拭うにも拳を叩き付けるにも、その両腕を未だ掴んで離さない不巫怨口女の腕が邪魔で、邪魔で邪魔で仕方ない。
供助は咆哮と共に腹に力を入れ、両腕へ凝縮させた膨大な霊気を一気に放出させる。
バヂン――――ッ。電気が激しく弾けるような音が耳を劈く。




