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      篝火 -サイゴノテ- 参

「手癖だけじゃあなく、往生際も悪いぜ……俺ぁよ!」

「イイイィィィイ!」


 供助は額に汗を滲ませながらも不敵に笑い、敵は忌々しそうに歯軋りを鳴らす。

 数秒間の浮遊を味わってから、不巫怨口女の腕は地面へと転がり落ちた。


「数が多けりゃ厄介だが、この程度ならなんとでもならぁな」


 と言いつつも供助の息は荒く、顔色も血の気が薄くて悪い。常に両手を構えているのも辛く、両膝に手を当てて小さく屈んで呼吸をする。

 それでも弱音は吐かず、強がり、笑ってみせる。体は辛く厳しくても、気持ちだけは強く保とうと。

 だから、供助の眼光の鋭さは衰えを知らない。諦めない心を燃料に戦意がさらに燃え滾る。


「次はなんだ? また手か? 足か? それともそのデケェ図体で突っ込んでくるか?」


 息が切れ、疲労が溜まり、今にも尻餅を突きそうでも、目は離さない。外さない。

 供助の双眸に不巫怨口女が映らなくなるとすれば、それは目的を果たした時か、命を落とした時だろう。


「ア、イ、イィ……ィィイィ」

「っと、答えは手が一本と足が一本。代わり映えしねぇな」


 不巫怨口女の下半身。恐らく野槌が元となっているであろう蛇腹(じゃばら)の巨体。その側面から生えている無数の手足から、二本だけがうねうねと動きながら長さを得ていく。

 代わり映えが無くとも、見栄えが悪くとも、格好が悪くても。必要な時間さえ稼げればそれでいい。

 供助は重い体を動かし、屈ませていた上半身を起こす。


「同じ事をしてくるってんなら、こっちも同じようにブン殴ってやるだけだ」


 大きく深呼吸を一度だけして、さらに気を引き締める。

 今の時点でどれだけ時間を稼げたのかは解らない。時計を見る余裕なんて無ければ、見る気もない。

 猫又からの合図が無い以上、まだ必要な時間は稼げていないのだけは確かなのだ。ならば、やる事する事はこのまま変わらない。

 また手足を伸ばしてくるなら、またブン殴ってやろうと。供助は両手を握り、来るであろう攻撃に待ち構える。


「……? なんだ、うねうねさせてるだけで飛んでこねぇぞ」


 しかし、不巫怨口女は腕を宙でうねらせるだけで一向に攻撃してくる気配が無い。

 仕掛けてこないならばこないで、時間を稼げるから都合が悪い事は無い。だが、だとしても不穏の念を抱かずにはいられない。

 供助が不審に思い、眉を僅かに寄せた次の瞬間。


「んなっ!?」


 構えていた供助の両腕が、不巫怨口女の手に固く握られた。


「コイ、ツ……!? 腕をうねらせていたのはフェイントかッ!」


 敵の思惑にまんまと嵌まり、供助はしてやられたと舌打ちを漏らす。

 不巫怨口女は腕を伸ばして攻撃してくると注意を引き、その間にさっき殴られて地面に落としていた腕で供助の腕を掴んだのだった。

 疲弊していたとは言え、供助の打撃は申し分ない威力だった。現に不巫怨口女の腕は折れて不自然に曲がり、骨が肉を突き破って血も出ている。

 だが、問題は疲弊からの思考と注意力の低下だった。地に転がって動かなくなったと言うだけで、もう機能しないと思い込んでしまった供助の油断が招いた結果。


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