篝火 -サイゴノテ- 弐
「他に、他に何か……何でも良い、少しでも妖力が溜まる方法……」
猫又は俯き、脳をフル回転させる。何か打開策は、他に手は無いかと。
食料は今ので最後、妖力の回復はこれ以上望めない。ならば、視点を変えろ。思考を変えろ。無理な事を探すのではなく、可能な事を見付けろ。
猫又は考え、思い付き、辿り着く。妖力を増やす方法は無い。だったらその逆。減らす事はどうか、と。
ならば今、現状で、この瞬間に。“使用している妖力を削る”とすれば、それは――――。
「これか……!」
猫又は俯いて落としていた視界に映った己の腕を見て、答えを見出した。
自分が出来る最善。実現可能な最良。
「イインチョウ、一つ尋ねたいのだが」
「な、なんですか?」
「お主、運動神経はいい方かの?」
「えっ……は、はい。ラクロス部に入っていますから、それなりに自信はありますけど……」
「そうか……!」
猫又が思い付いた策。その鍵の一つが埋まった。
「すまんが、尋ねついでに手伝って欲しい事が出来たの」
「古々乃木君と猫又さんが頑張ってるんです、私に出来る事なら何でも手伝います!」
「助かる。そう難しい事ではないから安心していいの」
「それで、私は何をすれば……?」
「それはの……」
不巫怨口女に聞かれて言葉を理解するとは思えないが、用心に越した事は無い。
猫又は小さく手招きし、近付いてきた和歌の耳元で小さく伝える。
「わ、わかりました」
「うむ。一発勝負だからの、思いっ切り頼む」
猫又は小さく頷き、正面を向くと。
巨体の妖と、残り僅かな体力を振り絞って戦う供助の背中が見えた。
「はぁ、はぁ、はぁ……威勢も手数も減ってきたな」
「ィィィィイイイィイィアアアアァァァ……!」
「ハッ、それはお互い様か。俺も腕が重たくなってきやがった」
息は切れて荒く、大きく肩を上下させる供助。
対面する不巫怨口女の発声には常に呻きが混ざり、全体的な動きに鈍りも目立ち始める。
しかし、それは供助も同様である。体力と霊力の激しい消費が続き、両腕を構えるのも辛くなってきていた。
「いや、奴は生気を吸収して回復してる分、俺の方がジリ貧か……」
今もなお、背中に感じる追い風。沢山の生徒が倒れている校舎から吸い起こされる、人の生気。
脳裏には友人達が苦しむ顔が浮かび、焦燥感に駆られる供助。時間が無い状況で時間稼ぎをしなきゃならない、このもどかしさ。
だがそれでも、この状況を打開出来る唯一の方法はこれしかない。自分が持つ全てをベットして、相棒の猫又の一撃に託す。
分の悪い賭けは好きじゃない、と。心の中で小さく呟きながら、供助は再び拳を握る。
「イィィィィィイイィアアアァアアッ!」
「けど、十分くれぇは踏ん張ってやらぁ!」
奇声と共に急伸する、不巫怨口女の手。
それを迎え打ち、叩き落としてやると。供助は大きく腕を振りかぶる。
十数メートル後ろには友人と猫又が居る。退くのも逃げるのも、倒れるのも諦めるのも許されない。
「おおぉぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁあっ!」
供助の咆哮が響き、大振りの一撃が炸裂する。
襲い掛からんとした不巫怨口女の二本の手が、そのひと振りで空高く打ち払われた。




