探者 妖 ‐サガシモノ ヨウ‐ 弐
横目で見ていた供助から一度視線を外し、正面を見て。
猫又は眉を微かに寄せ、感情を押し殺すように下唇を噛む。
「共、喰い……?」
「狐の妖怪でな。何か知らんかの?」
「悪いな、俺は力になれそうにねぇ」
供助は猫又に答え、肩を竦め鼻を鳴らす。
「……そうかの。まぁ、そう簡単に手掛かりがあれば今頃見付けておるか。聞きたい事はそれだけだの」
猫又の強張っていた表情は解れ、微苦笑しながら天井を見上げる。
残念そうな素振りを見せず、現に残念とは思っていないだろう。
ただ、残念でなくとも。一向に進まない現状に対する歯痒さを、供助は知っている。
同じく妖怪を探している身として。
「まぁ待てよ。俺は、って言ったんだ」
「うぬ?」
「バイト先の上司なら、もしかしたら何か知っているかもしれねぇ」
供助がスウェットのポケットから取り出すは、携帯電話。
「一時間くらい前にお前を拾った事をメールしてな。目を覚ましたって報告ついでに聞いてやる」
「いいのかの?」
「言ったろ。あくまでついでだ。お前の為じゃねぇよ」
「前言撤回。供助、お前は気が利くの」
「ぜん……なに?」
「前言撤回、と言ったんだの」
「何語だ、そりゃ」
「……ふむ。今度は代わりに頭が悪いを追加だのぅ」
携帯電話の画面を操作している供助に、猫又は呆れた目を向ける。
供助が自分で頭が悪いと言っていたが、さすがに猫又はここまでとは思っていなかったようだ。
「ちなみに、探している理由を聞いちまっても?」
「ふむ、そういえば供助。この家は一軒家のようだが、一人で住んでおるのかの?」
「あぁ、一人だ」
「両親は居らんのかの?」
「今、それは関係あるか?」
「関係無いの」
「……言いたくねぇ、って事か」
遠回しに言う猫又に面倒臭さを感じながら、意図を読み取った供助は肩を竦ませた。
携帯電話のリダイヤル画面からある電話番号を探し、供助は電話を掛ける。
「それでも聞きたいと言うならば、過剰なリップサービスにはチップをやらねばならなくなるの」
「拾った猫からチップを巻き上げる程、俺ぁ貧乏じゃねぇ。少ねぇ妖力を無駄遣いすんな」
妖力が込められて爪が伸びる、猫又の右手。
供助は宥めるように手を小さく手を上げ、携帯電話のレシーバーから鳴り始めた発信音に意識を向ける。