十分 -ジカンカセギ- 肆
「っぶねぇ……猫又が妖力を溜めてんのに気付きやがったかっ!」
供助が後方の猫又を見やり、不巫怨口女の腕が止まったのを確認した、ほんの数秒。
再度、視線を正面へと戻した瞬間。供助の眼前には新たな凶手が飛び掛っていた。
「ぐうっ!」
青白い色をした、伸びる長い腕。鞭のように撓しなり、その先端が供助を襲う。
両手は塞がっていて、離せば猫又の所へと奴の腕が飛んでいく。足は踏ん張っていて蹴りを出せる状態じゃ無い。
供助は咄嗟に腹部へと霊力を集中させ、衝撃と痛みに顔を顰めながらも攻撃に耐えた。
「細い腕のくせに重てぇじゃねぇか……ッ!」
「供助っ! 大丈夫かのっ!?」
「口ィ動かす暇があったらさっさと妖力を溜めろ! 打たれ強くても痛ぇモンは痛ぇんだからよ!」
供助の取り柄の一つである、霊の多さ。それを腹部へと凝縮させれば、妖にとっては高圧電流が流れている鉄壁となる。
不巫怨口女の腕は強く弾かれ、地に落ちていた先の二本の腕と一緒に元の長さへと戻って行った。
攻撃をなんとか防いだ供助であったが、その頬から垂れる血。今の攻撃を弾いた際、爪が引っ掛かって浅い切り傷を負っていた。
「が、こりゃあ良い感じだ」
だが、傷を一切気にせず。不敵に、供助は笑った。
「奴が猫又を狙うって事ぁ、俺よりも猫又を危険だと思ったわけだ。つまり、篝火をもっかい喰らったらヤベェって事だろ?」
そして、ぎらりと眼付きを鋭くして。
微かに見えていた小さな光が肥大し、供助の手には力が入る。
「――――けどよ」
ぎ、ぎ、ぎぎ……ぎ。
供助が掴む不巫怨口女の腕から聞こえる骨の悲鳴と、肉の繊維が切れていく音。
「時間稼ぎの為に囮になってんだ、俺も少し位は危険だってぇのを教えてやらねぇとなぁ?」
第一関節までだったのが第二関節へ到達し、霊力を纏った供助の凄まじい握力が不巫怨口女の腕をへし折った。
鈍くも小気味の良い音が鳴り、これで奴の手足を折ったのは何本目か。だが、今回は折るだけではない。
折った腕を、肉を引き裂いて骨がはみ出るその腕を、供助は。
「アアアァァァァイイィィィギャヤッヤヤアアアアアアアッ!」
――――容赦無く、引き千切った。
みちみちみち、と。ゴムのように伸びる肉。しかし、ゴムより伸縮性は薄く、肉はいとも簡単に離ればなれ。
腕の切れ目からは血が吹き出し、供助の足元は赤く染まり、大きな血溜まりが作られた。




