表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
225/457

第六十五話 十分 -ジカンカセギ- 壱

 ついに見え出した一筋の光。小さな希望。

 不巫怨口女を倒せる可能性が目に見えて、供助の拳には力が込もる。

 ……しかし、長引く戦いとここまでの蓄積されたダメージ。限界が近いのは敵だけでなく、供助自身もであった。

 増援が来るまで供助だけで持ち堪えられるか……恐らくそれは、確率は低いだろう。なぜなら。


「く、う……ぁ……」

「う、うぅ……」

「田辺君? 大森君も……!」


 生気を吸い取られて気絶した二人が、苦悶の表情を強くさせて呻き声を上げだす。

 息は荒く、顔色は真っ青。唇も紫。和歌が心配して声を掛けるも、二人の反応は苦しむだけ。

 そして、絶叫を上げて身悶えする不巫怨口女に一つの変化が起きる。不快を纏う強風が巻き起こり、奴へと吸い寄せられていく。

 言うまでもない。限界近くなった不巫怨口女が再生能力を回復すべく、生気を吸収する勢いを強めたのだ。


「ちっ!」


 後ろで苦しむ二人の友人を一瞥して、供助は忌々しそうに舌打ちする。

 自分の活動限界まではまだ余力がある。しかし、不巫怨口女の瘴気(しょうき)に抵抗する術を持たない太一と祥太郎は、もはや増援が来るまで保たないだろう。


「猫又……もう一発、篝火(かがりび)を撃てるか?」

「篝火とな……? すまんが無理だの。まだ僅かな妖力はあるが、先程と同等の篝火を撃てる程の妖力は残っておらん」


 これまでに灯火を二発撃った上に、不巫怨口女との戦闘でも常に消費していた。

 最大火力の篝火を出せる妖力はもう、猫又には残っていない。今も立つ事すら難しい状態なのだ。


「なら、どんだけ掛かる?」

「む?」

「篝火を撃てる程の妖力が溜まるまで、どんだけ時間が欲しいか聞いてんだ」

「……後の事を考えなければ、十分」

「よし、十分だな」


 猫又の返答を聞くや否や、供助は地面を強く踏み込んで軍手を嵌め直す。


「俺が時間を稼ぐ。お前はさっさと妖力を溜めろ」

「奴に限界が近付いておるとは言え、供助もすでにボロボロ。大丈夫なのかの……?」

「あの野郎を仕留めるにゃあ、もう一発篝火をブチ込むしかねぇ。なにより、俺よりもヤベェ奴等がいるんだ。どっちにしろ他に選択は無ぇよ」


 その通りだった。他に選択肢は無い。このままでは太一と祥太郎だけじゃなく、学校に残る生徒全員の命が危ない。

 そうなれば不巫怨口女が生徒の生気を吸い切るよりも早く、生徒達が息絶えるよりも先に。短時間で決着をつけるしか手は無い。

 となれば当然、高火力かつ高威力の技が必須となる。猫又の状態は知っていたが、それでも無理を承知で篝火に頼らざるを得なかった。


「いいか、お前は妖力を溜める事だけに集中しろ。俺がどうなっても構うな」

「いいのかの? 本当に手助け出来んぞ」

「知ってんだろ? 俺が打たれ強いってのぁよ。十分位ぇなんとかなる」


 猫又と和歌。そして、太一と祥太郎。不巫怨口女と対峙すべく、供助は四人を後ろにして厄敵へと向かい立つ。

 鉄の味がする唾を地面に吐き出し、切れた唇から滴る血を軍手で拭う。


「素人の太一と祥太郎が気張ったんだ、専門家(はらいや)の俺も気張んねぇでどうするよ……!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ