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      悶絶 -ショウキ- 肆

「あん、だ?」


 だらんと(こうべ)を垂らし、巨体は勿論、無数の手足も一切の動きが停止。

 奇怪不可解の行動に供助だけでなく、猫又や和歌達も怪訝の表情をさせる。

 そして、止まること約十秒。


「アアアアアアアァァァァアァァァァァァァァァァッ!」

「おおっ!?」


 ――――絶叫。

 項垂れていた頭は空へ向け、口は限界まで開けられて。

 啜っていた自身の血が混じる、赤色混じりの涎を垂らしながら……奴は、不巫怨口女は。

 悶絶悲鳴、苦悶絶叫。そう、つまり。奴は、とうとう。


「イイィィィィィィィイィィアアアアァァァァァァァッァァァァァァァァァアアァァッッッッ!」


 全身を襲う苦痛に、身を悶えさせた。


「なんだ、苦しみだした? 一体どういうこった……?」

「新たな手足を生やす……という様子でもなさそうだの」

「どうみても苦しんでるように見えるけどな、あれはよ」

「もしや、攻撃が効いていなかったのではなく、効いていたという自覚が無かった……?」


 和歌に肩を貸してもらい、なんとか立ち上がる猫又。

 そして、今になって苦しみだした不巫怨口女の理由を考え、その可能性を口にする。


「恐らく、長年に渡って続けられていた御霊(みたま)(しず)め……あれが効果を成していたのだろう」

「今更その効果が出てきたってのか?」

「いや、違うの。御霊鎮めによって不巫怨口女の限界値が格段に下がっていたのだ。だが、奴はその事に気付いていなかった。村人を喰い殺していた全盛期と同様に負傷の蓄積を気にせず、怨み晴らすがままに暴れていたのが仇となったのだろう」

「って言ってもよ、あんだけ殴っても涼しい顔をしていた奴だぞ?」


 供助はまだ半信半疑だと、何をされても対応出来るように不巫怨口女から目を離さない。

 自分が油断して隙を作れば、後ろに居る友人達を危険に晒してしまう。確信が持てるまでは、変な希望は持たない方がいい。


「奴の手足を見ろ」

「手足?」

「供助が付けた傷が治る速度が確実に遅くなっておる。それどころか、千切れた腕から新たな手足も生えてきておらん」

「そういやぁ気持ち悪くうねっているが、確かになんも生えてきてねぇ……」


 猫又に指摘された事を確認すると、確かに千切れた不巫怨口女の腕からは新しい手足が生えてきていない。

 それどころか傷も治る様子も全く無く、不巫怨口女は今もなお苦しみ身体を悶えさせている。


「んじゃあ、お前ぇの言う通り、その限界とやらがようやく表れたってんだな?」

「確証も確信も無い。だが、様子を見る限りでは確率は高いの」

「っしゃあ……!」


 供助は右手を左手に打ち込み、顔には笑みが自然に浮かぶ。

 まさかの展開。思い掛け無い所での一転。ようやく訪れた、好機。


「しつこく殴りまくってりゃあ、あの野郎を倒せるってんだなっ!」

「可能性としてはそうだが……危険なのは変わらん」

「それでもやるしかねぇだろ。やるしかねぇんだ……!」


 絶望が迫り寄っていた状況下で、見え始めた一筋の光り。勝機の言う名の希望。

 それを掴もうと、掴んで離さまいと。供助は自身の両手を強く、とても強く――――握り締める。

 限界間際の払い屋と、苦痛に身悶える不巫怨口女。祓うか、喰われるか。結果はどのような未来になるかは解らない。

 だが、決着の時はもう近くまで来ていた。


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