悶絶 -ショウキ- 参
握り合い。掴み合い。手と手の取っ組み合い。
供助が力を込めれば、不巫怨口女も潰し返すと言わんばかりに力が返って来る
拮抗する力。ぎしぎしと軋む骨。肉にめり込む互いの指。
だが、決着は早く。ものの十秒で勝敗は決した。むしろそれは、勝負とはまるで言えない結果。
「ハッ……手数が多けりゃあいいってモンじゃねぇな」
ぐちゃ。例えるなら完熟したトマトが潰された様と言えばいいか。
いとも容易く、簡単に。供助は不巫怨口女の手を、握り潰した。
「アアァァァァアァァァァイイッ!」
握力比べで負けたのが悔しかったのか。いや、悔しいという感情は奴には無い。
あるのは悔しいではなく、口惜しい。村人に騙され殺された恨み辛みの怨嗟のみ。
生きる人間全てが憎い。過去、現在、未来、関係無く。怨みを晴らすべく、いつまでも憎み、復讐し、食い殺していく。
再度、不巫怨口女は手足を伸ばし供助を襲う。
「俺と同じで芸が無ぇな……ほらよっ!」
供助は自虐を含んだ台詞を言いながら、今だ掴んだままの不巫怨口女の手を大きく振るった。
左、右、上、下、斜め、適当。長縄跳びをするように腕を振り回して、飛んできた手足を払い弾く。
握り潰した手をそのまま振り回していたのもあり、長く保たずにブチンと音を立てて手首から先が千切れてしまった。
「ありゃ」
糸の切れた凧のように吹っ飛んでいく腕を眺める供助。使い物にならなくなった物を持っていてもしょうがなく、千切れ残った不巫怨口女の肉片を投げ捨てた。
大きな労力を使わずに、不巫怨口女の手足を全て上手く弾き払う事が出来た。加えて体の痛みも少しだが引いてきて、供助の顔には余裕が見え始める。
それでも供助の負傷具合は軽くない。本当ならば柔らかい布団の上で気を失ってしまいたいだろう。
「アアァァアァァァァァァァ」
「やはり、手足を幾ら屠っても意味が無いの……」
闇夜の空へと伸び出す、不巫怨口女の手足。
底付きぬ肉塊の銃弾を、またも伸び飛ばそうと準備を始める。
「アアアァァァァァァァァアイイイイィィィ」
「来いよ、全部叩き落としてやらぁ……」
「……ア」
「あ?」
ぐねぐねと畝り、捻り、伸びる手足。天に逆らって伸びていた手足の動きが、ピタリと。
停止ボタンを押されたビデオ映像のように、止まった。




