助人 ‐タスケビト‐ 肆
「供助、君は……すぐサボり、たがる、から……たまには尻を叩、いて……あげなきゃ、ね」
「祥太郎……」
祥太郎はバットを握る力さえも残っておらず、息苦しそうに短い間隔で呼吸している。
二人の友人も、供助と同じだった。供助が太一達を助けようとするように、太一と祥太郎も供助を助けようとした。
供助が思うように、太一と祥太郎も思う。互いが互いに、己の友人が……掛け替えのない、大事な存在なのだから。
「アァァァア、イイイィィィィアアアアアァァァァァ……!」
白煙の中から聞こえてくる奇声。
太一が消火器の煙を吹き撒けてから、三分そこいら。白煙は微風に散らされ始め、不巫怨口女の影が薄らと現れて来た。
「供助、消火器での目暗ましも消えかけておるっ!」
「っち!」
猫又に言われて供助が視線をやると、不巫怨口女の手足が煙からはみ出てきていた。あと数十秒もすれば、あの巨体が完全に露になるだろう。
疲労困憊、満身創痍。そんな状態でも、供助は霊力を込めようとする。
「悪い、な……供、助」
力が上手く入らず、痙攣にも似た震えを起こす供助の右手。
その手の上に、太一の手が被せられた。
「助けに、き、といて……早く、も、足でまとい……だ」
「太一……」
「学校の皆、を……っはぁ、救え、なんて、さ……」
「生気を吸い取られてんだ、黙って寝てろっ!」
「面倒臭が、りの……お前、は……うんざり、だろう……けど、よ……」
もう、口を動かすのすら辛い状態であろうと言うのに。
太一が握ってくる手からは、僅かに。微かに。だが、確かに。
力が込められ、熱い何かが伝わってきた。
「供助は、俺達を助け……に、来たんだろ……?」
掠れて、途切れ途切れになりながらも、太一は必死に声を搾り出す。
そして、おもむろに太一が向ける視線の先を。供助も追って、見やって、目が合った。
不安と心配で一杯になっている和歌を――――幼い頃の、祭り帰りと重ねて。
「だっ、たら、ちゃんと……助けてくれよ」
「……あぁ」
供助は短い言葉で返して、被せていた太一の手を握る。
太一の言いたい事を察し、気付き。短くも供助の返事には確かな、強い意志が感じられた。
「太一、祥太郎……ありがとよ。お陰で助かった」
ふらりと。覚束無い足取りと、倒れそうに身体を揺らしながらも。
供助は自身の足だけで、立ち上がる。立ち上がって、大きく息を吸い、大きく息を吐く。
「今度は俺が――――助けてやる番だ」
供助の内には、再び戦意の炎が燃え出す。
まだ折れちゃあいないと。闘志の刃は、眼前の敵を倒さんと鋭く光っていると。
供助は己の武器を――――固く握った。




