第八話 探者 妖 ‐サガシモノ ヨウ‐ 壱
「スリーサイズを聞かれていたら食い逃げしたところだったがの」
「誰がお前ぇの貧相な体に興味持つかってんだ」
「ぐぬっ、人が気にしておる事を!」
「人じゃなく猫で、しかも妖怪だろうが」
「ぐぬぬぬぬぬ」
猫又の着ている黒い着物。その上から胸部には一切の膨らみが見当たらず、これまた平らな事平らな事。
小馬鹿にした口調の供助に、猫又は両手で握り拳を作る。
「ふ、ふん。私の成長具合は今は関係無かろう。で、実はの」
「なんだ?」
「私もちょいとな、聞きたい事があっての」
「代金替わりの弁当は持ってんのか?」
「胃の中にならあるぞ」
「ボランティアは好きじゃねぇって言ったよな?」
「ボランティアではなく、リップサービスを願っておるんだがの」
「残念な事に、俺のリップサービスは専ら試食しか受け付けねぇと有名でよ」
「そうか。そんなくだらん事が有名になるとは余程暇な街なんだの、ここは」
冗談に冗談で返し、皮肉には皮肉で返す。
今日初めて会った二人だというのに、息の合った言い合い。
息の合った言い合い、と言うのもおかしな言い方だが。
「……はぁ。ま、いいぜ。口の悪いリップサービスでいいならな」
「すまんの。口が悪いのは今までの会話で知っとる。気が利かんのもの」
「お前ぇは一言多いんだよ。んで、何なんだ? 聞きてぇ事ってのは」
「うむ。私はある目的があって全国を旅しておっての」
「印籠を持ってるようには見えねぇけどな」
「インロウ?」
「あー、なんでもねぇ。独り言だ」
首を傾げる猫又に、供助は気にすんなと苦笑いする。
妖怪が水戸黄門を知る訳ねぇか、と思いながら。
「そんで、その目的ってのは?」
「供助と同じだの。探し者をしておる」
「俺と同じ、って事ぁ妖怪か」
「うむ。払い屋稼業をしているお前なら何か知っているんでないかと思っての」
「さっきも言ったが、払い屋っても見習いの上にバイトだ。期待はすんなよ」
「それは解っておる」
横目で供助を見て、猫又は小さく笑う。
元々そう期待はしていない。今まで全くと言っていい程、何も手掛かりが無かったのだから。
もしかしたら、という宝くじを買う気持ちと同じ。期待すれば落胆する。期待しなければ落胆しない。
「私はの――――“共喰い”を探しておる」