助人 ‐タスケビト‐ 参
「それより、なんでお前等が……居るんだよ」
「隠れていた教室の窓から二人があの妖怪に押されているのが見えて、何か手助け出来ないかと思って……」
「そんで、祥太郎も叩き起し、て……駆け付けたって訳よ」
和歌に続き、太一がここに来た経緯を話す。
相手が一般常識と一般知識を逸する存在なのは解っていた。自分達に出来る事は限られているのも知っていた。
それでも太一達は友人の危険を、黙って見てはいられなかった。
「それに祥太郎は気絶してた、だろ」
「知ってたか? 軍手は二つでひと組なん、だぜ?」
言って、太一は右手に付けた軍手を供助に見せた。
いや、正しくは右手“だけ”に付けられた軍手を。
「へへ、僕は手で殴ったりは苦手だから……」
苦笑して、祥太郎が見せてくるは金属バット。ハサミで切って面積を広げられたもう片方の軍手が、ガムテープで貼られていた。
「供助が軍手これを付けて妖怪を殴ってる、なら……俺等にも殴れると思ってよ」
太一の考えは正解だった。
尤も不巫怨口女は物質化していて、軍手を嵌めずとも触れて殴る事は可能であったが、注意を引く程の威力は出なかっただろう。
人にとってはただの軍手だが、妖怪に対して供助の軍手は鉄板を仕込んだグローブのようなもの。
一般人が嵌めれば、メリケンサックで殴るのと同様の威力になる。
「けど、やっぱり……きっつい、なぁ」
「う、ん……ちょっと動いた、だけで、こんな……に、疲れる、とはね」
「太一……? 祥太郎っ!?」
呼吸を荒くさせ、胸元に手を当てて苦しみ出す太一。
祥太郎も同じく、持っていたバットを杖代わりにして苦しみ始めた。
「は、は……慣れない事は、無理、して……やるもん、じゃ……ないな」
「と言うか、これ……きつい、って、レベル、じゃ……ない、ね」
そして、二人共。自分の力で立つのも身体を支えるのも難しくなり。
糸が切れた人形のように、倒れ込んだ。
「やっぱお前等、無理して……!」
「あ、はは、は……ちょっと無理、しなきゃあ……供助君を、助けられ、なか……った、から、さ」
供助を心配させまいと祥太郎はなんとか笑って見せるも、引き吊った笑いにしか見えなくて。顔色は青く、唇は紫。それは太一も例外ではなく。
元々、不巫怨口女の影響で生気を吸われて弱まっていたと言うのに、それでも無理をして動けば当然の結果。祥太郎に至っては一度は気絶までしていた。症状は太一よりも重い筈である。
普段の供助ならば二人の症状に早く気付けただろう。しかし、不巫怨口女に負わされたダメージで、供助は二人の状態にすぐ気付ける余裕がなかった。
「ッカ野郎……! 俺の軍手で影響は薄まっても、生気は吸い取られて身体ぁ弱ってんだぞっ!」
「へっ、その弱ってる奴に……助けられ、てる……のは、誰、だよ……礼も、言わないでよ」
目を開けてるのも辛そうな顔をしているのに、太一は笑みを作って強がって見せる。
弱々しい声で、なのに激励しようと皮肉を言って。




