表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
218/457

      助人 ‐タスケビト‐ 弐

「祥太郎っ!」

「……あ、うん!」


 太一が横目で見ながら名前を呼び、祥太郎は恐怖を振り払う。

 そして再度、狙う。狙って、殴って、叩く。自分を助けてくれようとしてくれている友人を、助けようと。


「離せ、離せ、離せぇぇぇぇぇぇぇ!」


 ――――ベギン。

 折れる音。関節とは別の箇所が曲がり、腕には血が滲にじむ。

 不巫怨口女の腕がだらんと力が抜けて、供助の右腕から手を離した。


「いい加減、に……こ、の……きったねぇ手を……」


 自由になった供助の右腕。握られていた手首付近には、不巫怨口女の手の跡。青紫に残る痛々しい痣。

 それでも構わず。痛みなど慣れたもの。この程度の痛みなど、いつもの事。


「離せってんだよッ!」


 強く首を絞められて、痛めた喉から出されるガラガラの声。

 そして、淡く光る利き腕。それを、思い切り、振るう。

 ――――ごっ。


「アアァァアァァィイイィィ!」

「ハッ……お触り代にしちゃあ安かったか……?」


 供助の左腕と両足を掴んでいた不巫怨口女の腕を易々とへし折った。

 しかし、ようやく五体満足になるも、供助はその場に力無く倒れる。

 気を失いかけ、死にかけた所からの攻撃。今放った一撃はかなり無理をして打ったものだった。


「供助君っ!」

「っは、はぁ! げっほ! ごほっ!」


 倒れた供助へと駆け寄る祥太郎。首、両腕、脚。掴まれていた箇所には全て痣が出来て、物凄い力で締め付けられていたのが解る。

 供助も体の痛みよりも先に、欠乏している酸素を体が欲していた。


「祥太郎、今の内に離れるぞっ!」

「う、うん!」


 空になった消火器を投げ捨て、太一も供助の元へと駆けつける。

 消火器の煙で辺りは視界が悪い。今がチャンスだと二人で供助を起こし、肩を貸して担ぎ運ぶ。


「猫又さんっ!」

「お前も来ておったのか……」


 そして、太一と祥太郎の他に、救援はもう一人居た。

 委員長こと、鈴木和歌も二人と共に駆け付けたのであった。


「怪我は大丈夫ですかっ!?」

「怪我という怪我は負っていない、大丈夫だの。怪我ならば私ではなく供助の方だ……」


 太一と祥太郎。二人で肩を貸し、運ばれてくる供助はぐったりとしている。

 不巫怨口女の隠し腕による不意打ちから、追い打ちに壁への強打。さらには首の絞め付け。

 蓄積されたダメージは一気に限界を超え、供助の身体はボロボロ。首に付けられた痣が痛々しい。


「はぁ、はぁ……祥太郎、供助を下ろすぞ」

「う、うん……」


 二人は息を切らせながら、担いでいた供助を地面に下ろす。

 憔悴(しょうすい)し弱っている供助だが、意識はしっかり残っている。立つのは無理だったが、地面に片膝を突いてその場にしゃがみ込んだ。


「はぁ、はぁ! げほっ、ごほっ」

「き、きょう君っ!」

「んだよ、委員、長も……来てたの、かよ」


 和歌は供助へと駆け寄り、息を詰まらせ(むせ)る供助の背中を摩る。

 あまりに酷い様。体中の痣。苦悶の表情。唇に残る血の跡。クラスメイトのこんな姿を心配しない方が難しい。


「酷い怪我……大丈夫っ!?」

「大丈夫たぁ、言え、ねぇが……生きてんなら、十分、だ」


 痛みと疲労。顔を上げるのすら億劫(おっくう)で。

 供助は隣に来た和歌に視線を向けるだけで精一杯だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ