助人 ‐タスケビト‐ 弐
「祥太郎っ!」
「……あ、うん!」
太一が横目で見ながら名前を呼び、祥太郎は恐怖を振り払う。
そして再度、狙う。狙って、殴って、叩く。自分を助けてくれようとしてくれている友人を、助けようと。
「離せ、離せ、離せぇぇぇぇぇぇぇ!」
――――ベギン。
折れる音。関節とは別の箇所が曲がり、腕には血が滲にじむ。
不巫怨口女の腕がだらんと力が抜けて、供助の右腕から手を離した。
「いい加減、に……こ、の……きったねぇ手を……」
自由になった供助の右腕。握られていた手首付近には、不巫怨口女の手の跡。青紫に残る痛々しい痣。
それでも構わず。痛みなど慣れたもの。この程度の痛みなど、いつもの事。
「離せってんだよッ!」
強く首を絞められて、痛めた喉から出されるガラガラの声。
そして、淡く光る利き腕。それを、思い切り、振るう。
――――ごっ。
「アアァァアァァィイイィィ!」
「ハッ……お触り代にしちゃあ安かったか……?」
供助の左腕と両足を掴んでいた不巫怨口女の腕を易々とへし折った。
しかし、ようやく五体満足になるも、供助はその場に力無く倒れる。
気を失いかけ、死にかけた所からの攻撃。今放った一撃はかなり無理をして打ったものだった。
「供助君っ!」
「っは、はぁ! げっほ! ごほっ!」
倒れた供助へと駆け寄る祥太郎。首、両腕、脚。掴まれていた箇所には全て痣が出来て、物凄い力で締め付けられていたのが解る。
供助も体の痛みよりも先に、欠乏している酸素を体が欲していた。
「祥太郎、今の内に離れるぞっ!」
「う、うん!」
空になった消火器を投げ捨て、太一も供助の元へと駆けつける。
消火器の煙で辺りは視界が悪い。今がチャンスだと二人で供助を起こし、肩を貸して担ぎ運ぶ。
「猫又さんっ!」
「お前も来ておったのか……」
そして、太一と祥太郎の他に、救援はもう一人居た。
委員長こと、鈴木和歌も二人と共に駆け付けたのであった。
「怪我は大丈夫ですかっ!?」
「怪我という怪我は負っていない、大丈夫だの。怪我ならば私ではなく供助の方だ……」
太一と祥太郎。二人で肩を貸し、運ばれてくる供助はぐったりとしている。
不巫怨口女の隠し腕による不意打ちから、追い打ちに壁への強打。さらには首の絞め付け。
蓄積されたダメージは一気に限界を超え、供助の身体はボロボロ。首に付けられた痣が痛々しい。
「はぁ、はぁ……祥太郎、供助を下ろすぞ」
「う、うん……」
二人は息を切らせながら、担いでいた供助を地面に下ろす。
憔悴し弱っている供助だが、意識はしっかり残っている。立つのは無理だったが、地面に片膝を突いてその場にしゃがみ込んだ。
「はぁ、はぁ! げほっ、ごほっ」
「き、きょう君っ!」
「んだよ、委員、長も……来てたの、かよ」
和歌は供助へと駆け寄り、息を詰まらせ咽る供助の背中を摩る。
あまりに酷い様。体中の痣。苦悶の表情。唇に残る血の跡。クラスメイトのこんな姿を心配しない方が難しい。
「酷い怪我……大丈夫っ!?」
「大丈夫たぁ、言え、ねぇが……生きてんなら、十分、だ」
痛みと疲労。顔を上げるのすら億劫で。
供助は隣に来た和歌に視線を向けるだけで精一杯だった。




