単攻 ‐ソコヂカラ‐ 陸
「ご、っが……ごぇ、え……!」
供助はなんとか身体を動かし、四つん這いになるも……あまりの酷いダメージに腹の中身を吐き出してしまう。
びちゃびちゃと地面に溢れる吐瀉物。消化されかけた夕飯の弁当に混じる、赤い液体。
腹部の痛みだけじゃない。地面に落ちた衝撃で頭を打ち、視界は揺れて平衡感覚も滅茶苦茶。
激痛と吐き気、気持ち悪さと息苦しさ。様々な苦痛が一度に押し寄せ、供助の頭の中はぐちゃぐちゃ。
なまじ痛みがあって気絶出来ない分、地獄を味わう。
「アァイイ!」
「ふぐっ……がっ!」
弱まった獲物を見逃さず。身動きを取れない供助に、追い打ちが来る。
不巫怨口女から伸びる隠し腕が供助の顔を首を掴み、校舎の壁へと叩き付けた。
さらに、もう攻撃をされないようにと、供助の手足を伸びた手で壁に押し付けて。
「き、供助っ!」
供助へ行われる、容赦無い追い打ち。
今やっているのは相手を思いやり、競い合うスポーツなんかじゃない。これは払い屋と妖怪の殺し合い。祓うか喰らうかの二つだけ。
敵が強ければ、人間だって例外無く――――死ぬ。
「っは、が……あ、ぁ……!」
「供助、今行くのっ!」
頭、背中、腰、腕、脚。全身を強く打ち、体中に走る激痛。
抵抗しようにも手足が封じられている。対策を考えようにも脳が揺さぶられて働かない。
供助は意識を辛うじて留めておくのだけで精一杯だった。
「ぬ、う……ぅぅぅぅぅぅぅううううッ!」
残り僅かの妖力を振り絞り、動かない体に鞭を打ち。
相棒を救う為に、猫又は立ち上がる。
「供っ……」
が、しかし。立ち上がれても走る事は叶わず。
たった、たった二歩。足を動かしただけで躓いて倒れてしまう。
「あ、が……ぁ」
きし、ぎち……供助の首に食い込む、不巫怨口女の指。青紫色の伸びて欠けた爪の指が、首を折ってしまおうと締め付ける。
呼吸すら叶わなくなって息苦しさに抗うも、手足を抑えられ悶える事も出来ず。供助の顔色は一気に青白くなる。
そして、完全に弱まっているのを確認して……不巫怨口女は身体を近付かせ、バックリと。捕らえた獲物を頭から喰らおうと。歯を剥き出させ、ご自慢の大きな口を開く。
「供助ぇぇぇぇぇぇぇっ!」
猫又の叫びも、供助には届かず聞こえず。
さっきまで聞こえていた耳鳴りも、遠のいて聞こえなくなり。
供助の意識はとうとう薄れ、視界もボヤけ、瞼を開く力さえも失い……。
「とう、さ……か、ぁ……」
閉じる瞼。真っ暗になった視界。
途切れゆく意識の中で、閉ざされた筈の視界に映し出されたのは――――。
『供助。いつかきっと、大きくなったら――――』
『その名前の通りに――――』
昔、まだ小さくて幼かった頃。
頭を撫でられながら言われた言葉。大好きだった人達に言われた思い出。
懐かしい二人が笑っていて、追い掛けようと。手を繋ごうと。
光の中に消えていく思い出に、己の手を伸ばそうとしたところで。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
誰かの叫び声に、供助の意識は呼び止められた。
薄らと開けた瞼。微かな視界に映し出されたのは――――誰かの人影。




