単攻 ‐ソコヂカラ‐ 伍
「チマチマチマチマとよぉ……っざってぇんだよっ!」
どれだけ打ち込んでも、幾ら攻撃しても意味を成さず、効果を見せず。供助と猫又が奮闘しても、状況だけがどんどんと悪化する一方。
全く好転しない状況へ溜まっていた苛立たしさ、腹立たしさを爆発させるように、供助が叫ぶ。
叫んで、拳に力を入れ、走る。不巫怨口女へ向かって、走る。
「もっかい土手っ腹に穴ぁ開けてやらぁ!」
弱まっていた霊気は力強さを取り戻す。
一体どこから出てくるのか。供助の霊力が多いのは知っていたが、まさかここまでとは猫又も予想外だった。
右手に霊力を集中させ、不巫怨口女の腹。上半身である女性の腹部を狙い……飛ぶ。
「喰らい――――」
キィィィィィィィ……ン。
拳に集中し凝縮された霊力は金切り音にも似た甲高い音をさせ、フラッシュライトのように眩しく光る。
「――――やがれっ!」
渾身の一発。限界まで集密された霊力を纏う、強烈な一撃が決まった。
凄まじい霊力が凝縮された拳から打ち出される拳撃は、杭打ち機を連想させる威力を発揮する。
防ぎもせず、躱しもせず。防御も回避もしない不巫怨口女の腹に、供助の腕が突き刺さる。
「打撃であれ程の貫通力……ハンマーと言うよりも巨槍だの」
予想外の威力、予想以上の霊力。あの威力に猫又は唾を飲み、驚愕する。
供助と払い屋として組んでから二週間以上経つが、これ程の一撃を打ち放てるのを始めて知った。
「アァァ……イィ……ア」
「どうだよ、腹に穴ぁ開いた気分はぁよ……?」
肘近くまでめり込み、肉抉り、突き刺さった供助の右腕。
腹から突き刺さり、背中から突き出る利き腕。ぶしゅり、と。赤紫の血液が吹き出る。
腕に感じる肉の感触。滴る冷たい血。普通ならば致命傷は避けられない傷……だと言うのに。
「アァ、イィ……イ」
不巫怨口女が、微かに笑ったように……見えた。
そして、腕が刺さる穴に起きる異変。供助もその違和感に気付き、表情が強ばる。
「んなっ、に……ッ!?」
不巫怨口女の腹部に開けられた穴。それが明らかに供助が与えた傷以外に、穴が拡大していた。
しかし、危険を察して供助が腕に力を入れる次の瞬間には……傷穴には裂け目が広がる。
先刻にも一度、供助の右手が不巫怨口女の腹に刺さった時に感じた感覚。まるで掴まれているように腕が抜けなくなった。あれは、間違ってはいなかった。
“まるで”ではなく正真正銘、掴まれていたのだと、供助は目に映る光景で理解した。
「ごぉ、ふ……っ!」
強制的に肺から吐き出される二酸化炭素。
内側から引き裂かれ、大きな穴から飛び出してきた“それ”が。
供助を宙へと、突き飛ばした――――。
「きょっ……!」
猫又の目が捉えるは、物凄い勢いで吹き飛ばされる供助の姿。
お返しと言わんばかりに、貫かれた腹と同じ箇所へと打ち込まれ、めり込む。
裂け広がった不巫怨口女の腹から新たに現れ出た、何本もの隠し腕が。
「アアァァァァッハアァァァ……」
空に打ち上げられた供助は成す術は無く。重力に従って地面に落っこちるしかなかった。
供助は勢い収まるまで砂利の上を転がり、二十メートルもの離れた距離でようやく止まる。
それを不巫怨口女は満足そうに見下ろし、息を吐く。




