単攻 ‐ソコヂカラ‐ 肆
「アアアアアァァァィイッ!」
不巫怨口女は供助を見下ろし、奇声を上げての威嚇。
供助の攻撃により身体を怯まされた事に、苛立ちや怒りを覚えたか。
歯を剥き出して、血まみれの上半身をぐねぐね曲げる。
「イイィィィィアアァァアァァイイッ!」
ぐ、ちゅ……ぐち、ぐ、ぢゅ――――ッ!
立ち向かってくる人間を排除しようと。雄叫びのような声を上げ、不巫怨口女は手足を伸ばして供助に襲い掛かる。
供助と猫又の攻撃で何十と殴り折り、削ぎ落としはしたが、不巫怨口女の手足は何百とある。無傷の手足はまだ無数に残っていた。
加えて、切っても折っても引き千切っても。奴の手足は切断面から新たな手足が生えて再生するときた。
対して、供助の霊力も無尽蔵ではない。当然、猫又と同様に使用すれば必ず底は見えてくる。全力で殴りまくった直後であり、疲弊してるのは隠せないでいた。
「っち……!」
疲れれば当然、反応も遅れる。
目で見えていても、頭で解っていても、体が追い付かなければ意味が無い。
それでも、供助の身体能力の高さが光る。身体を捻らせ紙一重で攻撃を躱した。
「……こ、の!」
目の前に伸びる目障りな細腕を、また殴り折ってやろうと拳を振るう供助……だったが。
ふと視界の端に、何かが飛来してくるのが映った。咄嗟に振り向き、その方を見やると。
不巫怨口女の連続攻撃。顔面を狙った腕に続き、数本纏まった腕と足が、次は動きを止める為か足元を狙ってきていた。
「おわっ!」
だが、その連続攻撃も。供助は抜群の反射神経で反応し、バックステップで後ろへ下がって避けた。
そして、空振った不巫怨口女の攻撃は、襲い掛かった勢いのまま地面に突き刺さった。
――――それを、供助は見逃さず。
「足も使えんのはテメェだけじゃあねぇんだよっ!」
「イィイィアァアァ!」
足元に突き刺さる標的の手足を、思いっ切り踏みつけた。
べきん、と骨が折れる音。それも、一つや二つじゃない。複数の骨が、束ねた木の枝が折られるように、容易くへし折られた。
供助が払い屋として扱う戦闘方法は素手喧嘩。攻撃に使うのは拳だけではない。それどころか使える所はどこでも使う。
拳、脚、肘、膝、肩、踵。機会があれば頭突きだって咬ます。
「っらぁ!」
二度、三度、四度。踏みつけ踏み潰し、最後におまけと蹴り払う。
不巫怨口女の手足の骨は折れ曲がり、肉を破って突き出て血が吹き出す。
供助はそれを蹴飛ばし、鋭い眼光放つ目で敵を睨めつけた。
「っはぁ、はあっ、ふっ、はあっ……!」
何度も大きく酸素を吸い込み、頬から垂れる汗を手の甲で拭う。
供助の様子を見れば明らかに疲労が蓄積し、体力も霊力も減っている。
身体を纏う霊気も小さく弱まり始め、一撃一撃の破壊力も下がってきていた。
「供助っ! 無理をするでない!」
「ハッ! 動けねぇ奴が動けてる奴の心配なんかすんじゃねぇよ……!」
言って、供助は作り笑い。
空元気で、やせ我慢なのは簡単に解る。
「アアアァァァァアィイイィ!」
「うぜぇ!」
――バチンッ!
供助は拳を振り払い、再度攻撃してきた不巫怨口女の腕を弾き防ぐ。




