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      単攻 ‐ソコヂカラ‐ 参

「第一、俺ぁ人喰いをブッ殺して仇を討つまで死ぬ気はねぇ……!」


 倒すべき敵。祓うべき標的。篝火によって焦げた箇所を、地面に溜まる己の血で冷やしている不巫怨口女。

 奴を睨み付け、拳を固く握り、霊力を練り込む。


「ひたすらブン殴ってやらぁ!」


 供助は大声で叫び、敵へ向かって疾走する。

 先手必勝……と言う訳ではないが、動きが止まっている間ならば殴りやすいと、供助は自ら仕掛け出た。

 そもそも先手を取れば勝てると言うのなら、どれだけ楽な相手だっただろうか。


「オラァ!」

「アアァイ……!」


 地面に這う不巫怨口女の上半身。その顔を、供助は(すく)い上げる形で拳の一撃を喰らわす。

 世間で呼ばれる言い方ならば、アッパー。拳を下から上へ振り上げる拳撃。

 不巫怨口女の頭部は鞠が跳ねるように、宙へと弾き飛ぶ。


「てめぇが人を喰うってんなら、その前に俺の拳をしこたま喰らわせてやる……ッ!」


 不巫怨口女の頭部がよろめいている間に、腹部へ何発も喰らわす。

 右、左、右、左、右、左……一気に打ち込み、ひたすら殴る。無呼吸乱打。まるでサンドバックに拳を打ち込むボクサーの如く。

 先の事は考えない、出し惜しみ無い戦い方。賭けの一手も無に終わり、相棒は疲れ果てている。生徒達の症状も危険な状態で、増援までの時間はまだ先。

 圧倒的な不利。完全な窮地。絶望的な状況。それでも供助は希望は捨てていない。諦めてなどいない。

 増援が来るまでの、あと一時間。たかが一時間。それぐらい、自分(テメェ)で持ち堪えてみせると。


「そらぁ……よっ!」


 最後に大振りの一発。不巫怨口女の体が、全身が揺れて後ろに下がった。

 バランスを崩したのでも、不巫怨口女が己の意思で引いたでもない。供助の攻撃だけであの巨体が、僅かではあるが退いたのだ。


「なんと……拳一つの打撃だけで、不巫怨口女の巨躯を退けおった……!」


 猫又は驚愕する。

 いくら攻撃しても傷付ける事は出来たが、奴を引かせ攻勢に出れた事は無かった。だと言うのに、供助は今、それを、一人で。拳だけでやってのけた。

 綺麗な言葉を並べるなら、決意の硬さ、意志の強さ、思いの形。燃える展開の格好良い少年漫画ならばそう書かれるだろう。

 だが、供助にとってはそんな格好良く、綺麗で、立派なもんじゃない。これは死に物狂いの、抗い――――その現れ。

 死にたくないから抵抗する。殺されたくないから邪魔をする。喰われたくないからブン殴る。

 そんな簡単な、解りやすい答え。シンプルな一言で終わる、答え。

 嫌なモンは嫌だ。それだけ。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァッ……!」


 とは言え、全力投球の全力疾走。おまけに全力全開。

 残る体力の事など頭に入れず、ペースなど糞喰らえ。思い付くままに、思った通りに、思うがまま打ち込む。

 そんな体力配分を考えない行動を取れば、息が切れるのは当然である。供助は肩で息をして、顎からは汗が滴り落ちる。


「イイィィィッハアアアァァッァァア」


 けれども、やはり。それでも、奴は。

 供助の打撃(ラッシュ)にも顔色変えず。不巫怨口女は、ゆっくりと、顔の三分の一を占める口から大きく息を吐いた。

 スポンジで顔を殴られたように、何事も無かったと言いたげに。


「ハッ……! 殴りがいがあるってもんだ……!」


 強がりにしか聞こえない台詞。しかし、供助は再び拳を握り、構える。

 戦意は消えず、闘志も込み上げ、力はまだ尽きず。身体だってまだ動く。霊力も残っていて、五体満足。

 諦めるには、まだまだ早い。


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