単攻 ‐ソコヂカラ‐ 弐
「まさか……己の血で、火を消す、とはのぅ……」
「今まで一番ブッ飛んだ妖怪だ、あの野郎は」
不巫怨口女を見やり、供助も嘆息する。
二人の攻撃を幾ら受けても平然とし、さらには賭けに出た最大火力の篝火も無駄に終わった。
もう打つ手が無い。最後の一手……切り札を使用しても、不巫怨口女を倒すのは不可能だった。
生徒を見捨てて逃げるか、このまま生徒と一緒に喰われるか。最悪の二者択一。
どっちも選びたくない。しかし、どちらかを選ばなくてはならない。
「くっ……」
猫又は何とか身体を起こし、考える。
何か手が無いか、何か策は無いか、何か、何か、何か何か何か何か。思考を巡らせ、頭を回転させ、考える。考えて、考えて、考えて、考える。
しかし、出る訳がない。思い付く筈が無い。出来る限りの事は尽くした。最高の一手も尽くした。そして、妖気も尽くしそう。
自ずと出てくるのは、やはり。最悪の答えしかない。考えても考えても。出てくるのは同じ答え。ぐるぐる、ぐるぐると。巡っては返って来る。
「――猫又」
ハッと、戻される意識。名を呼ばれ、猫又は下げていた頭を上げた。
そして、目に入ったのは……不巫怨口女へと対面する、供助の背中。
「動けるようになったら、どこかに身を隠せ」
「供助、お前はどうする……」
「お前と違ってまだ元気はあるからな。もうちょい遊んでもらうわ」
「一人で相手する気かの……!?」
「へばってる奴を働かせる程、ウチはブラックじゃあねぇからよ」
バシンッ、と。いい音をさせて、供助は右手を左手に打ち込む。自分に気合を入れ、集中する為に。
最大火力の一手。猫又の精魂込めた一撃、篝火の炎は無情にも濡れ消された。
だが、しかし。最大の技が通用しなくても、賭けに負けても、最悪の条件と環境で心が折れそうな状況でも。
供助の闘志は――――まだ消えちゃいなかった。
「あれほど仕掛け攻撃しても効果は見られんかった。私の篝火でさえこの有様だの」
「それでもやるしかねぇ。俺に出来るのは力一杯ブン殴る事だけだ」
「しかし……!」
供助は背中越しに、首だけを後ろの猫又へと向いて。
自分の事なのに他人事のように、供助は困ったもんだと言いたげに。
「俺ぁ馬鹿だからよ……一回二回やったぐれぇじゃあ学習しねぇんだ」
軽く笑った。
「それに親しい誰かが死ぬのは……もう勘弁して欲しいからよ」
「……あ」
供助は顔を隠すように前を向き、猫又は思い出す。供助の家にあった写真を。
仏壇に置かれていた、今は亡き、供助の両親の写真。若い男女が寄り添う、一枚の写真。
親しい者の死が如何に辛く、悲しく、寂しいか。供助は知っている。だから、何が何でも嫌だった。このまま諦めるのは。不巫怨口女を野放しにして逃げるのは。
そして何よりも、誰かの“死”を――――もう二度と、味わいたくないから。




