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    探者 人 ‐サガシモノ ジン‐ 参

「次で最後の質問だ」

「もう最後か。思うてたよりも短い問答だったの」


 供助は右腕をテーブルに乗せ、少し身を乗り出すようにして猫又を見る。



「人を喰う妖怪を……知っているか?」



 声のトーンは変わらない。しかし、どこか今の供助の声には違いがあった。

 言うなれば、重さ。この言葉には今までの会話とは違い、見えない重さがある。


「知らぬか、と聞かれてもの。古往今来(こおうこんらい)から存在している妖怪の中、人を喰らう妖怪なぞ珍しくもない。それだけの情報では絞り切れんのぅ」

「知っているか、知っていないか。どっちだ」

「ふ、む」


 供助は先程までの怠惰感を丸出しにした様子は消え、明らかに変わった目付き。

 猫又はその雰囲気で、次の問いは特別な事情があるものと察する。


「すまぬが、私にはお前の希望に沿える答えは返せそうにないの。昔ならば数多く居たが、最近では人喰いの類は珍しい」

「……そうか」

「昔と違い、今は祓い屋の質も数も増えとるからの。人喰い妖怪となれば真っ先に祓いの対象にされる。そんな今の世で、危険を犯してまで人を喰らおうとする妖怪はまず居らんの」

「お前は」

「む?」

「お前は人を――――喰うのか?」


 憤怒、怨恨、憎悪。

 静かに猫又を睨む供助の目には、激しい感情が渦巻いていた。

 その鬼気迫る雰囲気に、猫又は唾で喉を鳴らす。


「ふん、私は好んで人を喰うような味覚は持っておらん。生まれて此の方、一度も食った事は無いの」

「……」

「そう睨まなくとも本当だの。ほれ、ここに転がっておる弁当の空箱が証拠にならんか?」

「……いや、悪かった。この話になると、ちょっとな。気分を悪くしないでくれ」


 猫又の返事を聞き、供助は視線を落として静かに深呼吸する。

 少し張り詰めていた空気が元に戻り、猫又も小さく肩を揺らす。


「じゃ今までどう食い繋いでたんだ?」

「私は元々は猫のだからの。どこに行っても動物好きの人間は居るもんだの」

「あぁ、なるほど。お恵みを貰っていた訳か。猫じゃなかったらどうしてたんだよ」

「その時は他の妖怪みとうに山の作物や家畜を盗み食いでもしてたんじゃないかの? まぁでも、それに人の食べ物も美味い物が多くての、ここ最近では雑食派も増えとる」

「お前ぇみてぇにか?」

「うむ。人間社会に紛れ込んで生きる妖怪も珍しくないからの。私も人間食が好きでの、特に脂っこい物や刺身とかが……」

「お前ぇの好物なんて聞いてねぇよ、雑食」


 再び頬杖をし、やる気の無い目付きに怠惰感が滲み出てる態度。

 供助の様子は元に戻った。


「くだらねぇ質問に付き合わせて悪かったな」

「気にするでない。傷の手当と馳走になった弁当の礼だの。それに……」

「あん?」

「本当にくだらん質問であったなら、私も真面目に答えておらんよ」


 皮肉でもなく冗談でもなく、ただ本心を。微かに口端を吊り上げ、猫又は言った。

 それに対し、供助は。


「……はっ、そうかい」


 一瞬動きが止まり、目を、ほんの少し大きく見開いたあと。


「そりゃどうも」


 短い笑いを浮かべながら前髪を掻き上げ。

 そう、返した。


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