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      一八 ‐イチカバチカ‐ 参

「……供助」

「あんだよ?」

「悪い情報が入った」

「なに?」

「後ろを見れば解るの」


 猫又に言われ、後方を見る供助。気付けば背中に校舎があって、窓から教室の中を覗けた。

 供助が覗く教室は一学年の教室。室内では倒れる生徒が何人も見えた。窓から一番手前に見える名も知らぬ女子生徒は、顔色が悪く顔面蒼白で、唇も真っ青。

 明らかに症状は悪化し、生徒達の顔は土気色に近く。とても残り一時間以上保ちそうには……なかった。


「結局は俺等が不巫怨口女の気を引いていたのも無意味だったってか」

「結果を見ればそうなるの。少しばかりはこの頑張りも報われて欲しかったが……」

「くそったれが……!」


 後方の教室から正面を向き、供助は不巫怨口女へと視線を戻す。

 奴の足元に散らばる、切断された自身の手足。まるで廃デパートのフロアに転がる大量のマネキンみたいで、バラバラの手足と血溜まりから猟奇事件の現場にも見える。

 もっとも、このまま増援が来るまで供助達が持ち堪えられず、不巫怨口女を祓えなかったなら……供助が通うこの石燕高校は本当に猟奇事件の現場になってしまう。


「このままではジリ貧……だの」


 猫又は呟く。圧倒的な力量差と質量差。二人が幾ら攻撃しても不巫怨口女は苦にしない。

 迫る限界時間(タイムリミット)、先が長い増援到着(ゴール)。この状況。残りの時間。二人の霊力と妖力を幾ら削り消費しても、不巫怨口女は障害とも思っていない。

 このままでは自分達も、生徒も。不巫怨口女にやられるのは時間の問題だと、誰が見ても導かれる答えだった。


「……猫又、篝火(かがりび)だ」


 収まり始める砂埃。再度、巨体が露になる不巫怨口女。

 だが、そんな状況でも。追い詰められた状態でも。時間が無くても。供助は諦めていなかった。

 ただただ不巫怨口女(ひょうてき)から生徒を、友人を助け。その元凶を倒す事を考えて。

 自身が思い付く最善で、最良だと思う一手を……猫又に言った。


「篝火だと?」

「お前が言った通り、このままじゃジリ貧だ。増援が来る前に俺等の霊力と妖力が尽きちまうかもしれねぇ。だったら、勝負に出る」

「小さく削っても無理ならば、火力で一気に押し込むか……」

「一番火力がある技はお前の篝火だ。狙うならそれしかねぇ」

「確かに撃てはするが、奴に効き目があるか確証は無い……下手をすれば無駄に妖力を多大に消費するだけだの」

「分の悪ぃ賭けだが、他に手が無いってのが現状だ。更には時間も無ぇときた。出し惜しみ出来る状況じゃねぇってこった」


 早くも再生し始める不巫怨口女の手足。

 供助と猫又の背中の窓越しには、生気を吸い取られ苦しむ生徒達の姿。正面には、生徒達を苦しめる元凶が立ちはだかる。

 増援が来るまでの持久戦と、イチかバチかの高火力による一勝負。


「俺が奴の気を引く。頼んだぞ」

「……うむ。任せろ」


 持久戦に持ち込んでも、恐らく二人が耐え忍ぶ事は出来ても生徒達が耐えられないだろう。

 生徒が助からず自分達だけが生き残り、増援と合流して不巫怨口女を祓って寿司を食っても、そんな寿司が美味い筈がなかろうと。

 だったら、賭けに出る。供助が出してきた案に乗っかり、大博打に出る。

 猫又も意を決して、供助の案に同意した。 


「準備が出来たら思いっ切りブチ込めよ……っ!」

「言われるまでもないのっ!」


 軍手を嵌める両手を強く握り、供助は走り出す。先程受けた背中のダメージはあるが、戦闘に支障はない。

 実際は背中以外にも怪我をした箇所はある。腕、足、腹、顔……だが、供助は構わず向かう。怨念に囚われ人喰らう凶敵へと、立ち向かう。

 舞っていた砂埃は落ち着き、不巫怨口女の巨体を目掛けて猛ダッシュする。


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