心頼 ‐シンライ‐ 参
「で、奴を見付け、奴に見付かったはいいが……そこからどうするかの、供助?」
「……外に出す。そうすりゃ校舎内で倒れている生徒が喰われる事ぁ無ぇ筈だ」
「外、って……一体どうやって出すつもりかの!? あの巨体だの!?」
「昇降口の扉が開きっぱだった。多分あそこから校舎の中に入ったんだろうよ」
「確かに、あそこならば戸が広く大きい。あの巨体でも通れそうだの」
不巫怨口女はゆっくりと回れ右。
口に含んでいた肉塊を飲み込みながら、供助と猫又を見て……。
「そういうこった。解ったら……走れっ!」
「おおぅ!? 不巫怨口女がこっちに猫まっしぐらだの!?」
――走り出した。
蛇体の側面から生え伸びた手足を動かして、百足の如く蠢き走る。
「あいつが喰ってた腕は俺が折ったのだろうからな。怒ってんじゃねぇか?」
「そういえば私も灯火を顔面ヒットさせていたのぅ」
怒っているのかどうなのか、その理由が供助なのか猫又なのか。それとも両方か。理由も原因もとにかく、不巫怨口女が追って来ているのは事実。
二人は追い付かれないように全速力で廊下を走り、昇降口へと向かう。
幸いに今居る階は一階。太一と和歌を逃がそうと二階から降りていたのが幸いして、昇降口はすぐ近く。
「ァァアアアアアァァァアアイイイァイァイィィィィィィ……!」
身の毛も弥立つ奇声。
背後から押し寄せる巨躯に、供助と猫又は背中に冷たい汗を感じる。
全力で走っているのに悪寒を感じる、奇妙な感覚。暑いのに寒い、風邪をひいた時に似た感覚。
「猫又っ! 外に出たら、お前は上に飛べっ!」
「ぬっ?」
「また校舎内に戻られちまったら面倒臭ぇからな」
「そういう事か。うむ、解ったの」
猫又は供助の意図を理解し、目だけを向けて了承する。
見えてきた昇降口。入って来た時と変わらず、大きなドアは開かれたまま。
二人は全力疾走でスピードを落とさず、そのまま外へと飛び出る。
「アアアァァァァァァァァァァァ!」
追って、不巫怨口女も昇降口から出て来た。
蛇体の腹を引き摺り、うぞうぞと手足を動かし。猛スピードで追い掛けてくる。
「ふっ!」
「おらよ、こっちだムカデモドキ!」
猫又がジャンプしたのを横目で確認し、供助は不巫怨口女を引き付ける。
十、二十、五十メートル。それなりに昇降口から遠ざけた。不巫怨口女の意識も供助達に向けられている。
これで不巫怨口女が校舎内に戻る事は恐らく無いだろう。それに、気休め程度だが気絶している生徒から離れさせる事も出来た。
よし、と。供助は小さく呟いて。
「追いかけっこは終めぇだ」
供助は走るのを止め、不巫怨口女へと振り返った。
当然、足を止めれば不巫怨口女は迫り来る。耳まで裂け広がる口を開け、白く鋭い歯をガチガチ鳴らし。
「アアァァァァァァァイイィ!」
目前と迫る不巫怨口女に、供助は。
「猫又ぁぁ!」
相棒の名前を叫び呼んだ。




