第五十九話 心頼 ‐シンライ‐ 壱
七篠と交渉決裂し、元から同じ道を歩む事など無いと言うように。供助と猫又は背を向けてその場を離れた。
依頼も標的も同じ。だが、目的は違った。払い屋と祓い屋との違いが、溝が。明確に現れた会話だった。
やはり相容れない。同じ職業でも根本が違う商売敵。
さっきも、そしてこれからも。きっと手を取り合うは無いだろうと、供助は血が上って熱くなった頭の熱を吐き出すように息を吐いて、そう思った。
「で、どうするかの? 奴は敵ではないと言っておったが……」
「だったらそうなんだろうよ。不巫怨口女だけじゃなく、俺とお前を相手にするなんて無駄な手間ぁ増えるのは向こうだって嫌だろうからな」
「う、む。だが、警戒はしていた方がいいだろうの」
「たりめぇだ。何を考えてるかもどう動くかも解らねぇ奴だ、予想外の事をしてくるかもしんねぇ」
「予想外の事が起きる事を予想しろ。矛盾しておるが、そういう事かの」
校内を駆け足で周り、標的である不巫怨口女を探しながら会話する二人。
得体も素性も思考も、理解出来ない祓い屋。唯一解る事は、奴は金銭第一という点のみ。
人命より大事で、道徳より役に立ち、義理より信頼でき、最優先事項である金。
何故あんなにも金が欲しいのか、何の為に金を集めているのか。理由も目的も解らない。
だが、人命を軽んじ、ボランティアを嫌がっている時点で、恵まれない子供達に寄付するキャラでは無いのは明白。
ただ単に自身の欲を満たす為に、行動しているのだろう。
「奴の考え方は危険だの。誰かが犠牲になろうと関係無く、自身に利益が生まれる事だけを優先して考えておる」
金の為なら他者を傷つける事も躊躇わず、見捨てる事にも抵抗が無い。自分が巻き込まれない為に、周りを巻き込む。危険な存在。危険な思考。
猫又は先程の会話を思い返し、七篠に危惧の念を抱く。それは供助も同様であった。
「とにかく、祓い屋の事ぁ無視だ。協力が無理だってなら戦力として考えるのは無駄だ」
「うむ。結局は状況と状態共に変わらず、だの」
「あぁ。無駄に時間を食ってストレスを溜めただけだった」
ちっ、と舌打ちを一つ。供助もやはり七篠とのやりとりには腹が立ち、怒りを覚えていた。
しかし、いつまでも七篠の事で苛立っていてもしょうがない。供助は頭を切り替え、本来の目的へと集中する。
「猫又、お前ぇの鼻は?」
「相変わらず瘴気が邪魔して大して使い物にならん。さっきの祓い屋に気付けたのはすでに近くに居たのと、煙草の臭いもあったからの。供助の髪の毛センサーはどうかの?」
「なんだよ髪の毛センサーって」
「ほれ、おデコの上から数本垂れているではないか」
「こりゃただの前髪だ。妖気に反応して立ってくれるような便利機能はねぇよ」
「ゲゲゲ、そりゃ残念だのぅ」
「てめぇこそ猫又のクセに、刈り上げのオカッパ頭じゃねぇだろうが」
「それは猫又じゃなくて猫娘だの」
駆け足はいつの間にか疾走に変わっていて。
軽口を叩きつつも、二人は焦燥感に駆られ、廊下を駆っていた。
「俺の霊感もお前ぇの鼻もまともに働かねぇ……ってなると」
「このまま足を動かして探すしかないの」




