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    探者 人 ‐サガシモノ ジン‐ 弐

「ん、茶ぁ」


 数回咀嚼(そしゃく)して飲み込み、空っぽのコップを供助へと突き出す猫又。


「それ位ぇ自分で入れろ」

「ふん、気の利かん (わっぱ)だの。モテんぞ」

「妖怪に好かれても嬉しかねぇよ」

「可愛げがないのぉ」


 けっ、と顎をしゃくれさせて悪態をつく供助。

 それに対して猫又は鼻を小さく鳴らし、ペットボトルに入った烏龍茶をコップに注ぐ。


「あと童じゃねぇ。俺の名前は供助だ。古々乃木(ここのぎ)供助(きょうすけ)

「それはすまなかったの。では言い直そう。供助は気が利かんのう、モテんぞ」

「言い直すな」


 猫又はコップに入れた烏龍茶を飲み干し、大きくゲップする。


「まぁ、とりあえずだがの」

「ん?」

「供助、お前が危険じゃないという事は信じよう」

「あぁ、そりゃ良かった。弁当二個も食っといてまだ信じられねえとか抜かしたら一発ブン殴ってたところだ」


 胡座(あぐら)をかいて一息つき、割り箸に付いてきた爪楊枝を(くわ)える猫又。

 その様を見て、供助は内心でおっさんか、と突っ込む。


「礼を言ってなかったの。遅くなったが、よう拾ってくれた。助かった」

「いいっての、礼なんて」

「小動物を拾うような好青年には全く見えんが、見た目によらんものだの」

「好きで拾ったんじゃねぇよ。こんな金にもならねぇボランティアしたくもねぇ」

「まるで普段だったら見捨てていたような言い方だのぅ?」

「見捨てていたな、確実に。最初も見捨てる気満々だったし」

「ふん……つまりしたくもないボランティアをしてまで私を助けた理由がある、と」


 耳を微動させ、猫又は供助を見る。


「先程言っておった質問、とやらかの?」


 ぴん、と人差し指で爪楊枝を弾いて、空になった弁当の容器へ投げ入れる。


「まぁ、な」

「弁当を二つも馳走になったしの、答えられるものなら答えるぞ」

「なら、早速聞きてぇんだけどよ」

「ふむ、ドンと来い」

「それ」

「んむ?」


 供助は頬杖していた右手から顔を離し、その手の人差し指である物を差す。

 差された先は、猫又の右手首。


「それって、これの事かの?」


 供助の指先を追って、猫又は自分の右手首に付けてある物の事だと気付く。

 そして、供助に確認しながら右手を軽く上げ、猫又も同じ様に指差す。

 その際、小さく。ちりん、と音が鳴った。


「そうだ、その鈴の付いたヤツだ。それ、猫ん時は首に付けていたよな?」

「そりゃ首輪だからの」

「なんで今は手に付けてんだ?」

「猫の時は丁度良いのだが、人型になっとる時は流石にサイズが小さくての。だから、人型の時はこうして右手首に付けておる」


 猫又は右手を軽く振り、赤い首輪に付いた鈴を鳴らす。


「ある意味使い方も合っておるしの」

「あん?」

「首輪というのだから、手首に付けても問題なかろう? 首に違いないのだからの」

「ま、別にどこに付けるかはどうでもいいんだけどよ」

「そちらから聞いておいて、どうでもいいとはなんだ。答えてやったというのに」


 供助の言葉に少しカチンと来て、猫又は不満げに言葉を返す。


「その首輪……妖力で具現化した物だとか、妖具の類じゃあねぇよな?」

「別段そのような特別な物ではない。これは昔に人から(もろ)うた物でな、なんの変哲もないただの首輪だの」

「その付いている鈴もか?」

「無論だの」

「……だよな」


 猫又の返答を聞いて、特に表情に出さなかった供助だが、内心で少しだけ落胆する。

 大きく期待していた訳ではない。猫又を公園で見つけた時、首輪からは何も感じ取れなかった時点で特別な代物でないのは予想出来ていた。

 ただ、もしかして、と言う気持ちもあった。幼少期から聞こえていた鈴の音の正体を、原因を。せめて何かしらの手掛かりが手に入るんじゃないのかと。


「この首輪がどうかしたのかの?」

「いや、お前には関係無ぇ事だ。気にすんな」

「ふむ。若干気になるところだがの、気にするなと言われれば気にはせん」


 特に深く聞く事もなく、猫又の興味は簡単に消える。

 元々猫の妖怪だからか、興味が無くなったものには関心を見せない。


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