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第五十八話 二重 ‐ハヤイモノガチ‐ 壱

 聞こえるは己の足音のみ。静寂が漂う空間には、足音がよく響く。

 廊下、教室、階段、踊り場。各所で気絶している多くの生徒達。人は大勢居るのに人気を感じさせない校舎は、異質さが際立つ。

 そんな中を、供助(きょうすけ)達は足早に歩を進めていく。


「供助、どうにかすると言って出て来たはいいが……何か作戦はあるのかの?」

「ねぇよ。ある訳ねぇ」

「はぁ、だろうの。聞いてはみたが期待はしとらんかった」

「第一、作戦を考えてる時間なんてあるか?」

「無いの」


 供助の言葉に、猫又は溜め息混じりで答えた。

 まだ生徒達の症状は重くなく、喰われるまでは時間がある。が、楽観視は出来ない。

 横田が手配した払い屋の増援が来るまで、あと一時間半は掛かる。それまで生徒達が保つかと聞かれたら……口を紡いでしまう。


「俺等が不巫怨口女の相手をして気を引く。増援が来るまで持ち堪えるしかねぇ」

「やはり、それしか手は無いか。大仕事だの」

「前に一度言ったが、俺達が不巫怨口女の気を引き付ければ、生気を吸い取る力が弱くなるかもしれねぇ」

「それを期待して、横田が寄越した増援が到着するまで私達が踏ん張るしかない、か。猫の手を借りたいどころではないのぅ」

「それでもやるしかねぇんだよ。やらなきゃ、死んじまう」


 早歩きで廊下を進む供助。

 策も無い。案も無い。増援が来るのもまだ先。孤立無援に近いこの状況。供助が払い屋になってから一番の難題だった。

 自身の霊力を遥かに凌ぐ妖気を持つ妖怪、不巫怨口女。数百年前に封印され、御霊(みたま)(しず)めを行われていたにも関わらず、途方も無く底無しの怨念を孕んでいる。

 消えず、癒えず、忘れず。人間にされた行いを、犯した罪を。妖怪と化した数百年後の今となっても、怨み晴らし肉喰らう。

 上級の払い屋でも苦戦必須である妖怪に、見習いの払い屋一人と猫の妖怪一匹で交戦しなければならない。正直言って、五体満足で朝日を拝むのは難しいかもしれない。

 しかし、やらなけらば死んでしまう。喰われてしまう。先生が、生徒が、クラスメートが、友人が、幼馴染が。

 やらなければ学校に居る人間全員が、朝日を二度と浴びる事が出来無くなるのだから。


「供助、止まれ」

「んっだ、猫又?」


 不巫怨口女の瘴気によって、まともに機能しない猫又の嗅覚。だが、鼻が捉えた。嗅ぎ間違いではない。確かに猫又は嗅ぎ取った。

 そしてそれは、既にそれだけ近くに居る、という事。


「この、匂いは……!」


 鼻を突くのは、とある匂い。学び舎である校舎では嗅ぐ事はまず無い、紫煙の香り。

 小さい火元を口に咥え、煙草の煙を纏わせて。

 彼は、前兆も突拍子も無く、そこに居た。現れた。




「やぁやぁ、君等も来てたのか」




 黒い革ジャンに革のズボン、ブーツ。未だ残暑があるこの時期に、暑苦しい格好をしている。そして、深く被ったニット帽から僅かに伸び出る、赤い髪。

 同業者であり、商売敵。奴が当たり前のように、居た。


「お前ぇは、祓い屋……!?」

「供助の真似では無いが、面倒な奴が現れたもんだの」


 供助は僅かに目を細ませ、猫又は嫌悪感を隠さず身構える。

 対して祓い屋――七篠(ななしの)は、不巫怨口女の妖気や瘴気も気に介さず、街中と変わらず平然と煙草を吸っていた。


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