影響 ‐ムシバミ‐ 弐
「そういやさっき、そこの人も妖怪って言ってたけど……」
「うむ?」
太一は首を曲げ、周りを警戒していた猫又へと恐る恐る視線をやる。
「安心しろ、そいつに危険は無ぇよ。俺の財布以外に危害を加える事ぁねぇ、食い意地が張ってるだけの妖怪だ」
「誰が食い意地が張ってる妖怪だの、失礼なっ!」
「さっきペロリーメイトを貰って食ってただろうが」
「あれは小腹が空いたところに調度良く目に入っての、それで気付いたら貰ってて……」
「それを食い意地張ってるっつーんだろ」
ぐむぅ、と言葉を詰まらせる猫又。何か言い返したかったが、何も返せず。
そりゃそうだ、事実を言われただけなのだから。
「本当にこの人も妖怪、なの?」
「うむ。正真正銘、歴とした妖怪だの。ほれ、この頭の耳と尻尾が証拠だの」
猫又は頭の猫耳を動かし、お尻にある二本の尻尾を見せる。
「それって本物なのか……? てっきりコスプレかなんかかと」
「本物だの。触って確かめてみるかの?」
「じ、じゃあちょっとだけ……おお、おぉ! スゲェ、本物だ。ちゃんとくっ付いてるし、もふもふしてる」
「ふふん。私は猫の妖怪だからの。毛並みには自信があるの」
「猫の妖怪……尻尾が二本あるって事は……」
「予想通り、猫又だの」
腕を組んで自慢げに鼻を鳴らす猫又。猫のくせして毎日風呂に入っていて、意外と綺麗好きなのである。
ただし、読んだ漫画は部屋に散らかしっぱなしというだらし無さもあるが。
「けどよ、妖怪とか幽霊ってさ、普通は人には見えないものだよな?」
「まぁ、世の中じゃあそういう認識になってんな。またはそんなモンは存在しねぇと信じねぇ奴も多いけど」
「じゃなんで、その猫又さんや、さっきの化け物は俺達に見えるんだ?」
「あー、それは、なんて言やぁいいんだ……?」
太一の質問に、供助は軽く項垂れて頭を掻く。
供助自身は感覚で解っているのだが、それを説明する為の言葉が上手く出てこない。頭が悪く、口下手で不器用なのはこういう時に不便である。
「簡単に言ってしまえば、チャンネルみたいなものだの」
「猫又さん……チャンネル、すか? 」
「うむ。そこの頭はからっきしの供助に代わって、私が説明してやろう」
一言多いんだよ、と呟く供助。
小馬鹿にした目で見てくる猫又を無視して、供助は胡座をかいて頬杖する。
「で、そのチャンネルってのは?」
「テレビのチャンネルだの。普通の人が見えている景色が無料チャンネルで、霊や妖が見えるのが有料チャンネルと言ったところかの」
「は、ぁ」
「有料チャンネルを見るには料金を払うように、霊や妖の類が見えるようになるにはある程度の条件が必要での」
「あ、その条件って……」
「うむ。霊感がある、という事だの。幼い子供など感受性が豊かな時期は無意識に見ている場合もあるが、大概は霊や妖と認識せずに終わり、歳を取る毎に見えなくなっていく」
着物の袖に腕を入れて腕を組み、説明をしていく猫又。
「でも、俺は生まれてから今まで幽霊とか見た事ないし、霊感だってあるとは思えないけど。なぁ、委員長?」
「えっ? あ、う、うん……」
「なのに見えているって事は、俺達にも霊感が目覚めたのか?」
「いや、そうではないの」
猫又は近くの壁に背中を寄り掛け、話を続ける。
「私の姿が見えておるのは二人に霊感が宿ったのではなく、私が霊感の無い人間側にも見えるようにチャンネルを合わせておるんだの」
「えっと、つまり、よく有料チャンネルである一ヶ月お試し期間的な?」
「む、むぅ……ちょっと違う気もするがそんなところだの」
「じゃあ、あのでっかい化け物も猫又と同じ方法で……」
「いや、彼奴の場合は別だの。あれはもっと荒々しい」
「荒々しい?」
「うむ。私は人間に合わせているが、彼奴は人間のチャンネルを自分の方へと無理やり変えて見せている。言うならば、電波ジャックだの」
供助は床に座って黙ったまま。説明は苦手で、こういう役は猫又に任せた方が良いと解っているから。
説明は妖怪に詳しい、にゃんこ先生が適任である。




