表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
194/457

第五十七話 影響 ‐ムシバミ‐ 壱

 もぐ、もぐ、もぐ。もぐもぐ。

 ごっくん。


「いやはや、なんて言えばいいのか……困ったのう」


 ペロリーメイトを平らげ、頬に付いていた食べカスを親指で(すく)い取り、ぺろりと舐める。

 視線をやや上に向け、返答に迷う猫又。


「どうしたものか。のう、供助?」

「……」


 ちらりと供助を見やるが、供助は視線を落として床を見つめたまま。猫又に返事も無く、目も合わせない。

 供助は迷っていた。どうすればいいか、どう話せばいいかと。今まで自分が妖怪や霊が見える事、それ等を相手とする払い屋の仕事をしている事を、ずっと周りに黙って生きてきた。

 人の常識から逸した存在に、非現実的な仕事。理解してもらうのは難しい。そして、過去にそれを理由で疎外された。だからこそ、怖さを知る。

 周りから誰も居なくなる怖さを。一人ぼっちの寂しさを。怪奇な目で見られる辛さを。

 しかし、迷いはほんの数秒で消え去った。


「太一、委員長。二人の質問には同じ答えで返せる」

「え?」

「同じ答え?」

「さっき現れたバケモンと、そこのコイツはな」


 ゆっくりと顔を上げ、正面の太一の目を真っ直ぐ見て。

 左手の親指で猫又を指し、供助は話した。隠さず、正直に。




「――――妖怪だ」




 少しの、間。

 ぽかんと、太一と和歌は返って来た答えを受け入れ把握するのに、口を開けて固まった。


「ちょ、供助……言ってしまっていいのかの?」

「しょうがねぇだろ、こんな状況だ。それに俺ぁ、上手く誤魔化せれる様な頭も舌も持ってねぇ」


 深く息を吐き出し、供助は仕方なしと頭をぶっきらにかく。


「ちょっと古々乃木(ここのぎ)君、何言ってるの……?」

「そうだぜ、供助。こんな時に冗談――」

「冗談じゃねぇよ。事実だ」


 ふざけた様子は一切見せず。いつもの気怠そうな感じも、面倒臭さそうな態度も無く。

 至って真面目に、極めて真剣に。供助は二人に返した。


「さっきの廊下で見たバケモン……俺等と同じ人間に見えたか?」


 普段の倦怠感を丸出しの供助はどこにも見えず。今までに見た事が無い、鋭い眼差しで怖さすら感じる雰囲気を纏う供助。

 供助が言っている事に虚偽は無いと知り、太一と和歌は話を無言で聞いていた。ただ、非常識な状況を理解し、受け入れるのは余りに……現実とは掛け離れた話だった。


「アレを()の当たりにして、ヤベェ奴ってのは直感で解っただろ?」

「……なんて言うか、凄く不安になったって言うか、うまく言えないけどとにかく怖かった……」

「確かになんつーか、ただただ怖くて……逃げるのも忘れて固まっちまってた」


 太一と和歌はあの(おぞま)しい妖怪……不巫怨口女の姿を思い返し、身震いする。

 鱗がある蛇みたいな体に、無数に生えた手足。廊下をでさえ狭いと感じさせる巨大な体躯。

 現実離れし、人間離れし、一般常識の枠から外れた存在。


「今のこの状況……他の生徒や先公が倒れちまってんのも、アイツの仕業だ」

「皆が気を失ったのはあれが原因なのか!? なんなんだ、あれはっ!?」

「名前は不巫怨口女(ふふおんこうじょ)。かなり昔の妖怪だ」

「ふふおん、こうじょ?」

「奴は人間の生気を吸い取る妖怪らしい。それで周りは気を失っちまってる」

「生気って、体力みたいなものか?」

「そんなところだ」


 供助は首元を触り、痛みが引いたのを確認する。

 不巫怨口女による無数の手の跡はまだ残っているが、呼吸も整いダメージも無くなった。


「って、ちょっと待てよ。あの妖怪が原因で周りが倒れちまったのは解った。けど、なんで俺と委員長だけは気絶しないで無事なんだ?」

「……それは俺も不思議に思っていた。普通の人間じゃあまず意識を保つのは難しいってのに、なんでお前等だけ大丈夫だったのか……」

「もしかしたら、なんか理由があるのか? 共通点があるとか?」

「さぁな。その点に関しては俺もさっぱりだ」

「じゃあ、供助はなんで平気なんだ? 普通の人間じゃ気絶するんだろ?」

「……普通じゃねぇ、って事だろうな」


 供助は鼻で軽く笑い、肩を竦すくませ、自虐するように笑って見せた。

 普通じゃないと、周りと、皆と。目の前の友人二人と。遠く昔、一人ぼっちだった幼い頃を思い出して……供助は言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ