忌避 ‐キヒ‐ 伍
「手、出して。貼ってあげるから」
「いいっての、こんなの放っておいても勝手に治るって」
「いいから。動かないで」
「お、おい」
「昔もよく擦り傷とかしてたよね」
「……っち」
和歌は昔を思い出して微笑む。
幼い頃、近くの公園で走り回っていた。まだ仲が良く、一緒に遊んでいた頃を思い出して。
なのに今は、一緒に遊ぶ事なんて無くなって……会話だって笑い合ってする事も、無い。
一瞬だけど、まるで昔に戻ったみたいで、和歌は無意識に笑みが出ていた。
「ぶっはっはははははっ! 供助、花柄の絆創膏とはよう似合っとるのぅ!」
「うっせぇ。頭ん中が花畑のお前に笑われたくねぇ」
そして、昔の思い出をブッ壊すかのように、絆創膏を指差して笑う猫又。
まぁ、花柄の絆創膏なんて似合っていないのは痛いほど解っている。絆創膏を貼られたのが自分じゃなくて太一だったら、供助も猫又と同じく笑っていただろう。
「はい、これで大丈夫。他に怪我している所ない?」
「ここだけだ。他には無ぇよ」
本当は背中や首がまだ痛んでいたが、供助は言わずに嘘を吐いた。正直に言ってしまえば和歌が心配し、さらに自分のせいだと自身を責めるからだ。
昔からの知り合い。幼馴染だから、供助はそういう面を知っている。だから、嘘を吐き隠した。
和歌がポーチをスカートのポケットに仕舞おうとするも、手が滑ったのか床に落とす。
すると、ポーチの口からはみ出る小さな黄色い箱が一つ。忙しい人の味方、ペロリーメイト。
「これはペロリーメイト!? のぅ、これ貰ってもいいかのぅ!? 食べていいかのぅ!?」
「え? え、えぇ……別にいいですけど」
「やっほぅ!」
和歌から許しを貰うと、猫又は即座に黄色い箱を手に取る。
それはそれは速い事速い事。
「頭ん中が花畑のクセして花より団子かよ」
前髪を掻き上げ、額を押さえて溜め息を吐き出す。
背中や首の他に、頭も痛くなりそうだった。
「なぁ供助、さっきのアレ……なんだ?」
供助の対面に座って、太一は口を開いた。その顔は暗く、影を作り、怯えている。
理解出来ず、受け入れ難く、信じられないモノを目の当たりにして……恐怖が心を覆っていた。
「……あれは」
「あれは、なんだ?」
「……」
「知らないって訳じゃないんだろ? むしろ、供助は何なのか知ってる口ぶりだった」
「……」
なんて返せばいいのか。どう答えればいいのか。供助は解らず、黙ってしまう。
出来るなら、この世界に巻き込みたくなかった。自分がこんな仕事をしているのを知られたくなかった。
だから、言葉が詰まった。声が出てこなかった。
「ちょっと、いいかな?」
「どうした、委員長?」
「確かにさっきの化物も気になるんだけど……」
小さく挙手して、委員長こと和歌は話に割って入ってきた。
「あの、古々乃木君?」
「ん?」
「その、あの……」
和歌の視線が、戸惑いながら向けられる。
「この人は誰……なのかな?」
「うむ?」
食べカスを頬っぺたにくっ付けて、ペロリーメイトを頬張る猫又に。




