表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
193/457

      忌避 ‐キヒ‐ 伍

「手、出して。貼ってあげるから」

「いいっての、こんなの放っておいても勝手に治るって」

「いいから。動かないで」

「お、おい」

「昔もよく擦り傷とかしてたよね」

「……っち」


 和歌は昔を思い出して微笑む。

 幼い頃、近くの公園で走り回っていた。まだ仲が良く、一緒に遊んでいた頃を思い出して。

 なのに今は、一緒に遊ぶ事なんて無くなって……会話だって笑い合ってする事も、無い。

 一瞬だけど、まるで昔に戻ったみたいで、和歌は無意識に笑みが出ていた。


「ぶっはっはははははっ! 供助、花柄の絆創膏とはよう似合っとるのぅ!」

「うっせぇ。頭ん中が花畑のお前に笑われたくねぇ」


 そして、昔の思い出をブッ壊すかのように、絆創膏を指差して笑う猫又。

 まぁ、花柄の絆創膏なんて似合っていないのは痛いほど解っている。絆創膏を貼られたのが自分じゃなくて太一だったら、供助も猫又と同じく笑っていただろう。


「はい、これで大丈夫。他に怪我している所ない?」

「ここだけだ。他には無ぇよ」


 本当は背中や首がまだ痛んでいたが、供助は言わずに嘘を吐いた。正直に言ってしまえば和歌が心配し、さらに自分のせいだと自身を責めるからだ。

 昔からの知り合い。幼馴染だから、供助はそういう面を知っている。だから、嘘を吐き隠した。

 和歌がポーチをスカートのポケットに仕舞おうとするも、手が滑ったのか床に落とす。

 すると、ポーチの口からはみ出る小さな黄色い箱が一つ。忙しい人の味方、ペロリーメイト。


「これはペロリーメイト!? のぅ、これ貰ってもいいかのぅ!? 食べていいかのぅ!?」

「え? え、えぇ……別にいいですけど」

「やっほぅ!」


 和歌から許しを貰うと、猫又は即座に黄色い箱を手に取る。

 それはそれは速い事速い事。


「頭ん中が花畑のクセして花より団子かよ」


 前髪を掻き上げ、額を押さえて溜め息を吐き出す。

 背中や首の他に、頭も痛くなりそうだった。


「なぁ供助、さっきのアレ……なんだ?」


 供助の対面に座って、太一は口を開いた。その顔は暗く、影を作り、怯えている。

 理解出来ず、受け入れ難く、信じられないモノを目の当たりにして……恐怖が心を覆っていた。


「……あれは」

「あれは、なんだ?」

「……」

「知らないって訳じゃないんだろ? むしろ、供助は何なのか知ってる口ぶりだった」

「……」


 なんて返せばいいのか。どう答えればいいのか。供助は解らず、黙ってしまう。

 出来るなら、この世界に巻き込みたくなかった。自分がこんな仕事をしているのを知られたくなかった。

 だから、言葉が詰まった。声が出てこなかった。


「ちょっと、いいかな?」

「どうした、委員長?」

「確かにさっきの化物も気になるんだけど……」


 小さく挙手して、委員長こと和歌は話に割って入ってきた。


「あの、古々乃木君?」

「ん?」

「その、あの……」


 和歌の視線が、戸惑いながら向けられる。


「この人は誰……なのかな?」

「うむ?」


 食べカスを頬っぺたにくっ付けて、ペロリーメイトを頬張る猫又に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ