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      忌避 ‐キヒ‐ 弐

「え……? あの人……ひ、と?」

「アアァ?」


 目は見当たらない、見えない。しかし、解る。不巫怨口女が和歌へと首を曲げ、目を向け、狙いを定めたのが。

 そして、不巫怨口女は見せた。彼女の体ではなく、彼女の“本体”を。巫女と妖怪が混じり合ったその姿を。


「アアアァァァァォォォァァァアアアァ」


 鱗がある蛇の体躯。両側面に生える無数の腕と足。その数は何十と混じり、太さ長さ大きさまでも不揃い。

 不巫怨口女が動く度に、ずぞろずぞろと密集する虫のように手足も気味悪く動く。

 気味悪さ、異様さ、異常さ、非常識さ、不可解さ、不理解さ。姿形を一目見ただけで、一般人には常軌を逸したモノだと解る。

 そして、一番の問題があった。それは……大きさ。


「誰だよ、人間と変わらねぇ大きさっつったのは!」

「横田の話で下半身が蛇と聞いてはいたが、まさかここまで大きいとは思うてなかったの……!」


 とうとう現れ、接触した不巫怨口女。巫女の人体である上半身の部分は人間と同等の大きさだったが、それよりも下。

 腰から下は蛇とも百足とも言える、醜悪な容姿。そして何より、広さがある廊下を所狭しと埋める巨体。

 側面に生えている手足が壁に擦り付けられ、長く太い蛇の腹を床に這いつかせる。


「ひっ……なにこれ、あれ、なに……?」

「アアァァアァハァアァ」


 ぞわ、ぞわぞわぞわ。

 大小疎らの手足が蠢き、一際長く細い、骨と皮だけの腕が伸びる。

 和歌(のどか)の方へと、細い首元へと。裂けた口で薄ら笑いしながら。


「やっ、やだ……いや、来ないで……」


 動きは決して速くはない。だが、和歌はその場から動く事が出来なかった。

 不巫怨口女の危険性、異常性は姿を見て気付き察している。早く逃げなければならないと頭が答えを出している。

 なのに、動けない。身動きが取れない。その容姿に驚愕し、あまりの異様異形に圧倒され、足が竦んで歩く事すら叶わなかった。

 唯一取れた行動は、壁に背中を寄り掛け、そのまま力無く床に尻餅を搗つく事だけ。


「ったくよぉ……!」


 呟くと同時に、疾駆するは供助。

 向かうは言わずもがな、幼馴染のもとへ。


「だからさっさと逃げろっつっただろうが……」


 利き手である右手を強く握り直し、霊気を込める。そして、狙うは和歌に伸びる不巫怨口女の腕。

 あと数センチで触れようとする所で、供助はその腕を力の限り――――。


「この、だぁほ!」


 ――――殴った。

 太い木の枝を折ったような音が鳴り、不巫怨口女の細長い腕は関節が一つ増えた。


「アアァァァァァァイイィィィィィィィィィィイ……?」


 薄ら笑いから絶叫に一転――――するかと思いきや。

 不巫怨口女は折れ曲がった己の腕を不思議そうに眺め、ぶらぶらと宙で遊ばせる。

 明らかに腕は折れ、不自然に曲がっているのにも関わらず、痛がる素振りが全くない。


「っち、腕一本折っても大したダメージにならねぇってか」


 委員長と不巫怨口女の間に割って入る供助。

 決して手加減した訳でもない一撃。しかし、結果はご覧の通り。舌打ちし、薄らと額に冷や汗が浮かぶ。

 ただ、少なくとも目的は果たせた。供助の後ろで座り込んでいる、和歌を守るという目的は。 


「――あ」


 一瞬のフラッシュバック。過去の記憶。昔の思い出……その欠片。

 和歌は短い声を漏らし、重ねた。 


『どっかいけ! こっちにきても、おまえはいきかえらないぞっ!』


 もう何年も前の事。彼女がまだ小さかった頃、怖い思いをした時の思い出。その思い出と重ねた、重なった。 

 あの時に助けてくれた子供と、今、目の前に立つ少年の後ろ姿――――大きな、背中。


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