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      事端 前 ‐ヒトノゴウ ゼン‐ 弐

 綺麗な円形、淡く放つ明かり――――今宵は満月。

 こんなにも月が青い夜。風流であり、また神秘的でもあり……不吉を思わせる奇怪さが漂う。

 日付が変わる時間帯の街中は静まり返り、月明かりが街並みを青白く色を塗る。

 しかし、深夜という理由とは他に……何か不気味な空気、異様な感覚が原因でもあるだろう。

 鈴虫の鳴き声はどこからも聞こえず、無風で物が揺れて擦れる音も無い。無音無声の静寂に包まれた街、不気味に流れる空気。

 そんな夜街を走り抜ける二つの影があった。一人と一匹の、影が。



 ――以下、回想。


『今回のは非常にランクが高い依頼でね。本来なら供助君と猫又ちゃんの実力じゃあ回さないんだが……』


 電話口の向こう。横田は本意では無いと付け足すと、言葉を続ける。


『実はつい先刻まで、妖怪が封印された寄り代をとある地方から移送中だった』

「封印された妖怪、とな……?」


 供助と猫又は夜の街を走る。つい数分前に横田から依頼を任され、目指すは石燕高校。

 猫又が持つスピーカーホンにされた供助の携帯電話から聞こえてくる横田の声に、猫又が言葉を返す。


『東北地方の田舎に昔から伝わる土地神でね。遥か昔に寄り代に封印されて長い間、神社に祀られていた』

「む……土地神? さっきは妖怪と言ってなかったかの?」

『ま、色々と経緯があってね。村の言い伝えでは土地神とされていたが、実際はそうでなく妖怪だった』

「その言い方からすると、村人が妖怪と知らず祀り称えていた……という事かの?」

『いや、今回の場合は妖怪と知っていた上で神として祭っていた、だね』

「ふむ……何やら面倒な話のようだの」


 少し(いぶか)しげに、猫又は眉間に皺寄せる。


『土地神とされる封印されていたのは草木や花、畑の作物を豊作にすると言われていた妖怪でね。本来はそこまで危険な存在ではなかった』

「作物の豊作……となると、田の神などの類かの?」

『俺も最初はそう思った。が、資料を元に調査したらその妖怪は野槌(のづち)ではないかと結果が出た』

「野槌、か。神とまではいかぬが、野の精霊と言われておるの。だが、野槌は作物を豊穣させるような妖怪ではなかった筈。むしろ兎や鹿を喰らい、さらには人を襲う事もある有害な妖怪と聞いておるが……」

『よく知っているね、猫又ちゃん。相変わらず妖怪に関して博識だねぇ』


 野槌――蛇のような形をしており、頭の頂辺に口があるだけで、鼻も目も耳も無い。深山に住み、山野の精とも言われている。

 記述されている文書によっては差異があり、全身が毛だらけであったり人型であったりと、複数の言い伝えがある。

 ただ、共通しているのは目、鼻、耳が無く、頭部の頂辺に口があるという点。

 一説では、あの有名なツチノコの名前は、野槌と似ている事から命名されたとされている。


『昔、ある村が台風や豪雪によって作物が育たず、凶作が長く続いてね。村人は酷く苦しんでいた』

「今も昔も自然には勝てんからの」

『そんな深刻な食糧不足をどうにかしようと、村人が取った行動は近隣の山に住んでいた妖怪に助けを求めるというものだった』

「その土地に住む妖怪や神に縋るというのは昔では珍しく無い。人身御供など特に、の」

『ま、そこに救世主が現れて全てを解決する娘を救う……なんて御伽噺みたいな展開じゃないんだけどね。妖怪へ貢がれたのは残り少ない作物と、野山で狩った鹿や猪らしい』

「それで、結果はどうなったのかの?」

『作物は豊作になって食料不足も解決し、村にも活気が戻ったそうだ。それ以降、定期的に妖怪へ作物や山で採れた野鹿などを供えるようになり、凶作になる事は無くなった』

「しかし、野槌は農作物を実らせるような能力なんて持ってなかった筈だがのぅ」

『野槌も“草木の精”と言われる妖怪だ。村一つの畑作を実らせる位、そう難しい事でもないだろう』


 猫又と横田の会話に供助は入らず、無言で走行を続ける。別に無視している訳ではなく、話はちゃんと聞いて頭に入れている。

 しかし、供助の表情は強張り。いつもの気怠そうな態度は一切消え、危機迫り、鬼気迫る顔をしていた。

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