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    弁当 ‐ハラノムシ‐ 参

「ほれみろ。さっき言ったろ、安全とは言い切れねぇが安心はしていいってよ」

「そうそう信じられると思うか?」

「少しは信じて貰いたいねぇ。近所から苦情来たら面倒だしよ。ほれ、この通りだ」


 供助は持っていた割り箸をテーブルに置いて、両手をひらひらと上げて敵意が無い事を表す。

 だが、それだけで彼女の警戒を解く事が出来る訳もなく。まぁ、だよな、と。供助は一人ごちる。


「確かに霊や妖怪に関する仕事に関わってはいるけどよ、俺は祓い屋じゃねぇ。払い屋だ」

「私はお前の言葉遊びに付き合う気は無い」

「言葉遊びが出来る程、俺ぁ頭が良くねぇよ」


 警戒して表情が強張っている彼女に対し、供助はテーブルに頬杖して怠けながら自虐する。

 悲しい事に、供助の頭の悪さは自他共に認める程である。


「互いにやる事は妖怪退治や除霊と同じだけどよ、違う所があんだよ」

「ふん、どちらにせよ妖怪の敵には変わらんのだろ?」

「まぁ聞けよ。祓い屋ってのは金さえ出せば、相手が霊や妖怪の魑魅魍魎の類なら何でも構わず祓う奴等の事だ。中には相手を“消滅”させる奴もいるらしい」

「……!」

「成仏や除霊じゃなく、消滅だ。妖怪のお前なら意味は解るだろ?」

「……まぁ、の」


 供助の話を聞き、彼女は表情を曇らせる。

 この世には輪廻転生と言う言葉がある。死んであの世に行った者の魂が、何度もこの世に生まれ変わる事を言う。

 だが、これはあくまで魂があっての場合。転生する魂、霊魂がなければ転生しようが無い。

 供助が言った“消滅”と言うのは、そのままの意味である。

 成仏はこの世に残る霊をあの世に送る。除霊はその場にいた霊を離れさせる。しかし、“消滅”は転生に必要な魂までも破壊する。この世とあの世、両方から消えて無くなってしまう。

 幽霊、妖怪と関係無く。天国にも地獄にも行けず、ただ消滅する。存在が完全に無くなり消え去る。

 それは、死ぬ事よりも残酷で恐ろしい事であると言っても過言ではないだろう。


「で、払い屋ってのは人間に危害を加える奴しか祓わねぇ。危害を加えていても、その理由や原因によっては祓う以外の解決方法を取るしな。祓い屋と違って、払い屋は必ずしも霊や妖怪を殺すのが目的じゃねぇ。互いに最も良い形で解決するのを基本としている」

「それで、貴様は後者だと?」

「一応な。まだ見習いだけどよ」


 話を聞いても警戒したままの彼女に、供助は割り箸を手の上で遊びながら答える。

 見習い、と言った所で軽く笑いを混ぜて。


「ふん……随分と綺麗な言い回しをしてはいるが、貴様は一言も妖怪を“殺さない”とは言っておらん。言ってたとしても簡単に信じはせんがの」

「別に隠すつもりは無ぇけどよ。ま、場合によっては殺す時もあるし、殺すのも珍しい事でも無いしな」

「やはりな……ッ!」

「だぁから、安心していいっつったろ。俺はお前に危害を加える気はさらさら無ぇよ」


 進展しないこの状況に、大きく溜め息を吐く供助。

 こんな状況じゃ弁当も食べられず、段々と面倒臭さが出てきて辟易する。


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