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第四十九話 不変 ‐カワラズ‐ 壱

「おーい供助、そこのトンカチ取ってくれー」

「はいよ」


 供助が足元にあったトンカチを拾って太一に渡すと、トンテンカンと一定のリズムを刻んで木材へと釘を打ち込んでいく。

 今日も放課後に残り、とうとう明日の土曜日に控えた文化祭の追い込み準備が行われていた。

 教室の窓から見える外は既に陽が落ちて暗く、時刻も夜八時を過ぎている。なのに、教室内には生徒が何人も残って作業を進めていた。


「悪いな、供助。こんな時間まで付き合わせて」

「全くだ。飯でも奢ってもらわねぇと割に合わねぇ」


 トンカチを打つ太一の横で、供助は床に胡座をかいて悪態をつく。

 本来ならこんな時間まで学校に居るなんて絶対に無い供助が、こうして残っているには理由があった。

 明日が文化祭だろうが準備がギリギリだろうが関係無く、さっさと帰ろうとしていた所を太一の呼び止められて頼まれたのだ。人手が足りないから手伝って欲しい、と。


「なんで今日はこんなに人が居ねぇんだ? いつもはもっと残ってただろ」

「ウチのクラスは部活に入っている奴が殆んどだからな。そっちの出し物の準備もあって今日は人が少ないんだよ。明日が本番だってのもあるし」

「部活ねぇ……俺にゃ関係無い話だな。つーか、部活の出しモンって何やるんだよ」

「科学部は公開実験したり、演劇部はそのまま演劇したり。スポーツ部は大体食いモンの出店だな。他にも色々とあるみたいだぞ」

「演劇部が演劇やるってのに、なんでこのクラスも演劇やんだよ」

「クラスでの多数決で決まったからなぁ。ま、それでも結構面白いもんだよ。同じ出し物でも部活とクラスのじゃ少し味が違うって言うか」

「素人なのは変わんねぇだろ。違いなんてあんのかよ」

「例えるならカレーか。家庭によって味が少し違う、みたいな」

「解るようで解らないような例えありがとよ」


 供助は太一の説明に鼻息一つ。

 太一に頼まれたのもあって今日はサボる事もせず、放課後になってからずっと文化祭準備を手伝っていた。それもあって疲れたのか、供助は一層怠そうな態度である。


「っちゃあ、角に引っ掛けて軍手に穴空いちまった。ボロボロなのに誤魔化して使ってたんだけどな……」

「穴だけじゃなくてペンキで汚れてるじゃねぇか。さっさと新しいのと取り替えてこいよ」

「そうするか。材料買出しの時に安売りしてたのまとめ買いしたし」


 太一は作業していた釘打ちを一旦止めて、膝に手を掛けて立ち上がった。

 そして、歩いて向かう先は教壇の前でクラスメートと話している委員長の所へ。


「おーい、委員長ー。まとめ買いしといた軍手どこ? 俺の穴空いちゃってさ」

「あ、ごめんささい。軍手、もう全部無くなっちゃったのよ」

「うえ、マジか……」

「明日、先生が買ってきてくれる予定だから」

「しょうがない、穴空き軍手で我慢するかぁ」

「そうそう、宿泊届け書いた?」

「あぁ、書いた書いた。ほい」


 太一は制服のズボンのポケットから紙切れを一枚、委員長に渡す。


「一枚、か。古々乃木(ここのぎ)君は……」

「委員長の予想通り、帰宅組」

「だよ、ね……じゃあ、私はこれを先生に持っていったらそのまま体育館に行くから。大変だろうけど小道具の作成、お願いね」

「委員長の方が大変だろ。そっちも頑張ってな」

「ありがと」


 太一の激励の言葉に委員長は微笑み、少し忙しげに駆け足で教室を出て行った。

 揺れる大きなポニーテールの後ろ姿を見送り、姿が廊下に消えていったのを見計らって供助が太一のもとにやってきた。


「あん? 宿泊届け?」

「文化祭準備で学校に泊まるからさ、泊まるには宿泊届けを書かなきゃいけないんだよ」

「よくもまぁ学校に泊まってまでやろうとするもんだ。俺ぁ学校なんて一分一秒も居たかねぇってのに」

「ま、殆どの奴は遊び気分だけどな。学校に泊まれる機会なんてこういう時くらいしか無いだろ?」

「んな機会要らねぇっての」

「馬っ鹿だな、供助。いいか? 寝床の教室は別々とは言え、大勢の女子と一晩を共にするんだぞ? こんなドキドキな大イベント、逃す訳にはいかないだろうが!」

「馬鹿はお前ぇだよ。一晩中ドキドキして寝不足になりやがれ。俺ぁ()ぇる」


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