幼馴 中 ‐オサナナジミ チュウ‐ 参
「あぁ、そりゃ失礼。でも……ちょっといいっすか?」
「なんだ、あぁ? やるってのか? お?」
「いやいや、あそこ見て、あそこ。ビルの前」
「ビルの前ぇ? そこがどうしたってんだよ?」
供助が指差すと、促されて男二人も同じ方を見る。
そこには黒っぽい制服に、天井が水平に張られて黒い鍔が付いた帽子を被った人が立っていた。
「ほら、警察が居るじゃないすか。ここでこの子にまた大声で叫ばれたらヤバくないすかね?」
言って供助が委員長へと視線をやり、目が合って意図を察した委員長は。
これみよがしに、そして大げさに。大きな胸をまるでラジオ体操みたく反らし、息を大きく吸う。
「げっ、おい行くぞ!」
「っくそ、タイミング悪ぃな!」
この委員長の仕草を見れば、次に大声を上げられる未来しか見えない。
さすがに頭の悪そうな男二人でも予想が出来たようで。状況が悪いと判断したのか、男二人はビルとは反対方向へと慌てて走って人混みに消えていった。
「中退したとは言え先輩でもあるねぇ、俺に負けない位ぇの馬鹿だ。ありゃ警察官じゃなくて只の警備員だっての」
男達が消えていった方向を見て、供助は渇いた笑いを浮かべる。
供助が通う高校は偏差値が低めで、さらに中退したと言うさっきの男二人。その時点でもう頭の中身はお察しである。
「あ、その……助けてくれて、ありがと」
「あぁ? 俺ぁ喉が渇いたから飲みモンを買っただけだ。礼を言われる覚えは無ぇよ」
「でも、助けられたのは本当だから」
「勝手に助かっただけだろ。委員長が叫ぼうとしたからあの二人が逃げたんだからよ」
普段は言い合ってばかりの二人。供助の前ではいつも眉間に皺寄せている委員長だが、今は珍しく態度がしおらしい。
気が強くて強かな性格だが、やはり委員長も女の子。男二人に絡まれて怖かったのだろう。
「……ほらよ」
「えっ? って、わっわっ!?」
委員長の返事も待たず、供助は右手に持っていた缶ジュースを軽く投げて渡した。
緩い放物線を描いて、急に渡された缶ジュースを慌てて受け取る委員長。
「やる」
「え? でも、これは古々乃木君が飲みたいから買ったんじゃ……」
「コーヒー買おうとしたんだけどな、ボタン押し間違えて別の買っちまった」
「でも……」
「俺好みのジュースじゃねぇし、捨てんのも勿体無ぇだろ」
供助はぶっきらに頭を掻き、大きく欠伸。
ふと委員長が自販機を見やると、委員長が貰ったジュースと供助が買おうとしたコーヒーは、とても離れた位置に並んでいた。
隣同士だったならともかく、離れている上に列も違う。とてもじゃないが押し間違えて買ってしまうなんて事は考えられない。
しかも、供助があげた缶ジュースは――――委員長が子供の頃から好きなミルクティーだった。




