幼馴 中 ‐オサナナジミ チュウ‐ 弐
「悪ぃが、面倒臭ぇ事は嫌いなんで」
絡まれている委員長を横目で見て、家路に家路に就こうとする。が、しかし。右足を一歩踏み出たところでまた、足は止まってしまう。
疲れているし、腹も減った。おまけに五月蝿い猫が家で晩飯を待っている。気分は早く帰宅して飯を食い、風呂入って寝たい。
だが、仲が良いかはどうかは別として、委員長は顔見知りの仲ではある。これを無視して次の日学校に行って委員長が休みだったら、さすがの供助でも罪悪感を感じてしまう。
後味が悪いまま、せっかく買えたカツ丼やハンバーグ弁当を食べるのはどうだろうか。どうせなら何の気兼ねもなく、旨い物を旨いまま食べたい。
「……ちっ、本当に面倒臭ぇな。ったくよ」
結局、通行人Aになる事は出来ず。しかし、かと言って漫画みたいなヒーローなんかでも無くて。
人助けなんてガラじゃなく似合っていないのは自覚している。だから、適当な理由を探して、作った。“無視したら後味悪くて飯が不味くなる”と。
なんて事はない。つまり供助は、知り合いが困っているのを見過ごせなかった――ただの人間だった。
「いい加減にしてください! 私は早く家に帰りたいんです!」
「君、石高の生徒っしょ? 制服見れば分かるよ」
「だったら何なんですかっ!?」
「いやぁ奇遇だなぁ、俺等も石高の生徒なんだよね。去年、三年生で辞めちゃったけど」
セキコウとは供助と委員長が通う石燕高校の略称で、生徒の間でよくそう言われている。
委員長に絡む男の一人が喋る度に目に入るのは、舌に開けた銀色に鈍く光るピアス。お洒落なのか格好付けかは解らないが、喋り難くないのだろうか。
「あー、すんません、ちょいと通ります」
「えっ、あっ、古々乃……」
「そうなんす、ここの自販機で飲みモンを買いたくて」
絡む男二人と委員長の間を半ば強引に割って入り、驚いた男は掴んでいた委員長の手を離した。委員長が供助の苗字を言いかけるが、供助は無関係を装い途中で言葉を被せて誤魔化す。
そして、マイペースに財布から小銭を出して自販機のボタンを押すと、ガコンと缶ジュースが降りてきた。
「なんだ、テメェ!? こっちは取り込み中なんだよ、邪魔すんのか、あぁ?」
「いや、俺ぁ喉が渇いたんで飲みモンを買いたかっただけっす。邪魔なんてする気ねぇですよ」
「ならとっとと消えろや。俺等は取り込み中なんだからよ」
まぁ当然、いきなり現れて、しかも自分達の真ん前を通過されれば苛立ちもする。男達は無いようである薄い眉毛を八の字にさせて、無意味に体を揺らしながら供助にガンをくれる。
幽霊や妖怪相手とは言え、喧嘩商売じみた仕事をしている供助。それなりに体は鍛えられていて引き締まっている。
しかも、人と違って変質変異な行動をする妖怪を相手にしている為、それに反応できる供助は反射神経もズバ抜けていると言っていい。
態度や声がデカイだけの男二人だけなら喧嘩になっても勝てるだろう。が、面倒臭がりな供助はそんな事をする筈も無く。




