幼馴 前 ‐オサナナジミ ゼン‐ 肆
「普段からクラスでもちょっと浮いてるし、これを機に周りと打ち解けれたら良いなぁって思ってたんだけど……余計なお世話なのかな」
「大変だねぇ、クラスの委員長も。文化祭の準備だけじゃなくて問題児の事も気に掛けなきゃいけないなんてさ」
「委員長だからって訳じゃないわよ。古々乃木君も楽しめて、いい思い出を作って欲しいだけ。今の思い出を作れるのは今だけだから」
上っ面だけの綺麗事なんかじゃない。委員長が本心から思う、素直な言葉。
過去の話で笑える未来を作るのは、現在しか出来ない。凄く当たり前の事だけど、人はそれを忘れがちになってしまう。
「だってぞ、供助」
「なんで俺に振ってんくんだよ」
「お前の事だからな、お前に振るべきだろ?」
「……ちっ」
話を盗み聞くつもりはなかった。しかし、近くに居る二人には嫌でも聞こえてしまう。
太一が話を振ると、供助は頭を掻いて舌打ち一つ。
「あ、ごめんね。先生に呼ばれてるから、そろそろ行かなくちゃ」
「うん。じゃ小道具の事は太一君に聞いてみる」
「木材とかまだ余ってたから、多分作ってくれると思う」
「和歌もあまり頑張りすぎちゃダメだからね。何かあったら言ってよ? 私も手伝うからさ」
「ありがと。とりあえず文化祭を成功させなきゃね」
「今は大変だけど成功させたら打ち上げしようね、打ち上げ」
「いいわね。クラスの皆で出来るよう、先生に頼んでおくわ」
「よっろしくぅ。じゃね」
「うん」
クラスメイトの女生徒は走って教室に戻っていき、委員長は足早に階段を降りていった。
階段には誰も居なくなり、離れた教室や廊下から賑やかな声が聞こえてくる。屋上の踊り場には静けさが戻ってきた。
「ホンット、委員長は大変だな。文化祭準備だけじゃなくて、こんな不真面目生徒の事まで気に掛けてるなんてさ。なぁ供助?」
「お前も普段は不真面目だろうが。それに大きな親切、小さなお世話なんだよ」
「……大小が逆になってんぞ」
初めて委員長の本音を聞いた供助。正直な感想を言うのなら、それは“意外だった”。
委員長はいつも文句や小言を言ってきて、供助はそれを面倒臭そうに適当に受け流す。そんなやり取りや態度を取られていれば、誰だって嫌がるし嫌うものだと……だから供助は、委員長に嫌われていると思っていた。
しかし、委員長の口から出て言葉にされた胸の内は。嫌ってなどいなくて、むしろ一緒に文化祭を楽しんでほしいと言う。
「知ってんだろ、俺が面倒臭い事が嫌いなのはよ」
「面倒かどうかは、人によって基準が違うよな」
「何が言いてぇんだよ」
「面倒臭い事か? 委員長に応えてやる事は」
「……さぁな。少なくとも楽じゃあねぇだろ」
供助は胡座をかいた膝の上に頬杖し、素っ気ない態度で太一から目を逸らした。
他人の評価を気にせず、周りの目を意に介さず、自分の印象なんてどうでもいい。供助はそういう性格で、そうやって生きている。
相手の気持ちを知ったからといって態度や接し方が変わる訳でもない。供助は変わらない。何も変わらない。いつも通り自分は自分らしい、自分の生き方で生きていくだけ。
人の顔や機嫌を伺う生き方が好ましくなくて、得意じゃない供助。だから、自分らしく生きる事を決めている。自分らしく、無理のない、楽な生き方を。
「……そろそろ教室に戻るか」
「お? なんだ、早くないか?」
「また委員長に突っ掛かれて小言を言われたら堪んねぇからな。それに早く終わらせればその分、早く帰れる」
「ははっ、そうだな。みんなが早く帰れるな」
そう、自分らしく。供助は缶ジュースを一気に煽って飲み干し、怠そうな態度で立ち上がった。
不器用で、素直じゃない。それも供助の生き方の一面で、特徴の一つとも言える。短所なのか長所なのか、はっきりと分別が出来ないあたりが面白い。
そんな供助を見て、太一はくすりと小さく頬を綻ばせた。
「面倒臭い事が嫌いなクセに、面倒臭い性格してんな」
「なんか言ったか、太一」
「いんや、なーんも。委員長にはお前がサボってた事は上手く誤魔化してやるよ」
太一も座るのを止めて立ち、供助の背中を軽く叩いた。
仲が良くなければ知り得ないだろう、供助の一面。普段は怠そうな態度で、面倒臭がり屋で、何事にも興味を示さず、非協力的。
故に誰もが親睦を深めず、敬遠してばかり。だから、数少ない。供助の根っこ、奥底はとても優しく……決して薄情で無い事を知る者は。
ただ弄れた性格のせいで偽悪的な言動をしてしまうのだ。
「しっかし、さっきの女子にはいい印象無かったな、供助」
「嫌われんのは慣れてる。昔っからな」
「小学校ン時は真っ直ぐな奴だったのに、どこでそう性格がひん曲がったか」
「うっせ、お前には言われたくねえよ」
二人は並んで屋上の階段を降り、自分達の教室へと戻って行く。教室までの間、短い談笑を交えながら賑やかな廊下を渡って。
しかし、供助の意識は別のモノにも向けられていた。不可視でありながら、でも確かに存在して聴認している。
さっきから鳴り聞こえる、ある音。あの音。
――――チリン。
昔から聞こえる、異怪の音。鈴の音。




