見付 ‐ハッケン‐ 参
「つーか太一の奴、漫画を持ってくるだけにしちゃ遅くねぇか?」
「僕も思ってた。見付かんな……」
供助と太一が開けっ放しにされた居間の戸から、廊下に見える階段へと目を向けた時だった。
『――――――ッ!?』
どたん、ばたん、ずどん。
二階から騒がしく暴れるような音と、太一が何か叫ぶ声が聞こえてきた。聞こえただけで、なんて言っていたかまでは解らなかったが。
「なんだぁ?」
「本棚を倒しちゃったのかな?」
「にしては騒がしい音が長く聞こえ―――」
供助は言葉を途中で止め、ここで自分が失念していた事に気付いて青ざめる。
寝起きで頭がまだ完全に働いていなかったのに加えて、久々に見た両親の夢にばかり意識が行っていて忘れていた。
供助が固まっている間にも騒音は二階から聞こえ、それどころか段々と大きくなって近付いてくる。
「もう手遅れだな、こりゃ」
頬杖をしていた手で顔を覆い、ぐったり項垂れる供助。
この後に起こるであろうイベントをどう躱そうかと頭を悩ますが、どう考えても打開策が思い浮かばない。
もしゲームみたいに選択肢が出てくるとしたら、全ての選択肢が『躱せない。現実は非情である』になっているだろう。
「待て、コラこのっ!」
太一の声と共に、ドタバタと階段を降りる足音。
台詞からして何かを追っているようで、残念ながら供助にはその心当たりがあった。
そして、供助が再度廊下の階段へと視線をやると。バスケットボール大の黒い物体が、供助の顔面を目掛けて飛んできた。
「ふにゃーーっ!」
「んがっ!?」
ビターン、と。それはもう力士がビンタをぶちかましたような音。顔に衝撃が来てよろめくも、供助はなんとか持ち直して態勢を整える。
視界は真っ暗になって何も見えない。見えない……が、供助は原因が何なのかは理解していた。
なんせ視界が暗くなる直前に、半べそをかいて突進してくる黒い猫が見えたからだ。
「わ、わ、一体なんなの、太一君!?」
「供助、そのまま動くな! 今俺が捕まえて……」
急に騒がしくなった居間に戸惑う祥太郎と、息を荒げて距離を詰める太一。起きて早々、面倒な事が起きたと心の中で愚痴る供助。
とりあえず息苦しいので、顔面にしがみ付いている猫又を掴んで引き剥がす。
「息が出来ねぇだろうが、離れろ」
むんずと掴んだ所は首根っこで、猫又は顔から簡単に離れた。
「ね、猫っ!?」
「供助の部屋で漫画探していたら、この黒猫が布団の上で寝ててさ。捕まえようとしたら起きて逃げるんだもんよ」
「二階に居たって事は窓から入ったのかな? それとも一階から入って知らない内に二階に行ったのかも」
「どっから入ったのか分からないけど、とりあえず外に出そうと思ったら今に至る」
「首輪付けてるし、どこかの飼い猫みたいだね。飼い主が心配してるだろうから早く外に出してあげないと」
供助に首根っこ掴まれて宙ぶらりんの猫又を見ながら会話する太一と祥太郎。
「あー、その、なんだ……こいつはウチのだ」
「はぁ!?」
「えぇっ!?」
なんかもう言い訳やどう誤魔化すかを考えるのが面倒臭くなって、空いた左手で頭を一度掻いて。
とりあえず正直に黒猫は自分の家のだと教えると、二人は素っ頓狂な声を上げた。




