第四十五話 見付 ‐ハッケン‐ 壱
「ん、ぁ……」
微睡みの中に埋もれていた意識が段々と覚醒していき、閉じられていた瞼がゆっくりと開く。
無意識の小さな声を漏らして、供助は眠りから目を覚ました。
「ってて」
体を起こすと、右腕に電気が走るような痛みがした。枕代わりにしていたせいで痺れてしまったようで、右腕には畳の跡がくっきりと付いている。
昨日、太一と祥太郎がアポ無し訪問してきて、ほぼ強制的に供助の家に泊まって夜通し遊んでいた。
外が明るくなってきた辺りまでは記憶があるが、さすがに友恵の件での疲れがあって体力の限界だったらしく、気付ば供助は途中で寝落ちしてしまった。
「だぁぁぁぁ、ダメだ! 勝てる気しねぇ!」
供助がまだ少し寝ぼけ頭の状態で聞こえてきたのは、太一の叫び声であった。
諦めの言葉を言いながら持っていたゲームのコントローラーを手放す太一。テレビの画面を見ると、祥太郎と格闘ゲームで対戦していたようだ。
「太一君のキャラは相性が悪過ぎだよ。他のキャラを使ったら?」
「いいや、このキャラは俺の魂のキャラだ。キャラ替えはしない!」
「って言ってもう十連敗だよ」
「だから必死に対策を探してるんじゃねぇかよ」
「それで見付かったの? 対策」
「次回作に期待」
「見付からなかったんだね」
「だってよー……リーチも判定も火力も、全てにおいて劣っててどう勝てってん……お、起きたか供助」
温くなったペットボトルのジュースをコップに注ぎ、キャップを閉めたところで太一が供助に気付いた。
「どんだけ寝てた?」
「今九時過ぎだから……四時間くらいか」
「あー、体が痛ぇ」
肩に手を当てながら首を回し、供助は硬くなった体をほぐす。
パキポキと数回、首の関節が鳴った。
「お前等ずっと起きてたのか?」
「うん。太一君が格ゲーやろうって言うから対戦してたんだ」
「元気だなぁ。昨日だって休みなのに学校で文化祭の準備してたんだろ?」
「供助君が寝過ぎなだけじゃない?」
「夜に寝るのは当たり前の事だろうが。それに昨日は色々あって疲れてたんだよ」
供助は祥太郎と話しながらテーブルの上のコップに手を伸ばす。
渇いた喉を潤そうと、さっき太一が飲んでいたのと同じ物を掴み取った。
「ん? なんだ供助、泣いてんのか?」
「は?」
「涙出てんぞ、涙。怖い夢でも見たかぁ?」
「んな訳あるか」
太一に言われて顔を触って見ると、確かに頬が濡れて目尻にも涙の跡があった。
そこで、自分がさっき見ていた夢を思い出した。懐かしく、優しい、昔の夢。もう何年も前の、子供の時の記憶。
「欠伸だ、欠伸」
思い出して懐かしさのあまり拭き取った涙がまた、流れ出そうになるのを堪えて。供助は適当に言って誤魔化す。
昔の夢を見て、懐かしさのあまり泣いてしまったなど……ガラじゃない事は自分が一番よくわかっている。
正直に話したとしても、太一と祥太郎はそれを小馬鹿にしたり悪戯にからかう人間ではない事も知っている。
けど、話して気を遣わせるのも嫌だし、供助は己の過去を話すのは好きじゃなかった。




