昔夢 ‐オモイデ‐ 肆
「君、アレが見えていたわね」
「お姉さんも……見えるの?」
「お姉さんも、って事はやっぱり見えていたのね」
黒髪の女性は幽霊が居なくなったのを確認して、少年へと視線を落とした。
さっきの幽霊とは違う。優しくて温かな微笑みを見せ、少年に話し掛ける女性。
こうして相手が笑って話してくれるのはいつ以来か。少なくとも、少年の記憶では思い出せない位には昔の事だった。
嬉しさがある半面、強い戸惑いを感じながら少年は怖ず怖ずした様子で言葉を返した。
「見ただけでさっきのアレは良くないモノだって解っていた筈よ。なんで付いていこうとしたの?」
「それ、は……」
「あの幽霊の所に行っていたら、君は確実に憑き殺されていたわ。まさか、死にたかった訳じゃないでしょう?」
「……」
優しく柔らかい微笑みは消え、今の女性は真剣な面持ちになっていた。
幽霊の事を話す毎に迫害を受けていった少年は、正直に話す事に抵抗を覚えていた。何を話してもまた嫌われるという現実が心に植え付けらてしまって。
だから、少年は正直に話す事を戸惑い、口を閉ざす。久しぶりに普通に話してくれる人が現れたのに、話してしまえば嫌われると思ったから。
「何か理由があったの?」
「……」
「黙り、か。話してくれなきゃ解らないでしょうに」
女性は困った顔をさせて、腕を組んで少しだけ肩を上下させた。
どう接して何を話せばいいのか。少年は答えが出てこなく、黙ったまま俯く。
「おーい、化物が嘘をついて人を困らせてるぞ!」
「本当だー。また幽霊が見えたって言ってるのかなー?」
「どこにもそんなのいないのにねー」
離れた所でサッカーをしていた子供達が、少年と女性が一緒に居るのを発見するやいなや指差して嘲笑し始めた。
周りに聞こえるよう大声で、馬鹿にした口調。そして、少年は沢山の子供達にクスクスと笑われる。
「……なるほど。話してくれなくても解っちゃったわ」
「――っ!」
子供達を見やって、嘆息混じりに理解する女性。
少年は下唇を噛み、俯いていた顔をさらに俯かせる。
「でも、見えるのは本当でしょう? 大丈夫、私は君の事を嫌ったりしないよ」
「えっ?」
「だから、そんなに他人の目を気にして怖がらなくていいわ。私は君の理解者だから」
思わず耳を疑ってしまう、女性が言った言葉。
少年は俯いていた顔を上げ、女性を見ると。
「ね?」
にっこりと微笑んで、優しく頭を撫でられた。
人に優しくされたのはいつぶりだろうか。前に温かく接してもらえたのは、いつだったか。
靡く長い髪に、日差しに照らされ光る薄ら浮かんだ額の汗。綺麗だと思える女性の容姿に見蕩れてしまうと同時に。
久しぶりの人の温もりに触れ、少年は涙が零れそうになる。




