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第四十四話 昔夢 ‐オモイデ‐ 壱

     ◇     ◇     ◇





 風が凪ぎ、草木が揺れ、頬を柔らかく撫でる。波打つように踊る芝草に、歌うように騒めく気の枝葉。

 自分も混ざって一緒に踊り歌えれば、楽しいのだろうか。

 青く広く、澄み渡る空。見上げれば雲一つ無くて、吸い込まれてしまいそうな晴天。

 このままいっそ吸い込まれて、空に落ちてしまえばどんなに楽か。


 ぽつんと――――少年は一人で思う。


 木で出来た柵の前で、向こうに広がる平原と青空を見上げる。どこまでも続く緑の道と、限りなく浮かぶ青い天井。

 誰も居ない世界。人っこ一人存在しない空間。存在するならそこに行きたいと少年は願う。

 誰も居ない所に行ければ、きっと嫌な思いも。陰口を言われる事も。気持ち悪がられる事も。

 何も無くて、誰も居なくて、何をされる事も無い。少なくとも今居る場所よりはずっと、いい場所。


 ――――ぼすん。


 何かが当たった感触が背中にした。

 痛くは無かった。柔らかな感触で、痛くはなかったけど少年は気になって振り返る。

 すると、足元に薄汚れたサッカーボールが転がっていた。ぶつかってきた正体は恐らくこれだろう。拾おうと手を伸ばした、その時。


『おい、触るなよっ!』


 子供が走って現れ、奪うようにボールを持っていった。見た感じ歳は五、六歳程。少年と同じくらいだろう。

 少年へと向ける子供の目は、虐げるような冷たい目。自分とは違う異物へと向ける眼差し。

 とても友達を見るようなものではなかった。


『お前が触ったら化物が感染(うつ)るだろぉ!』


 そして、逃げるように。子供は走り去っていった。

 どこに? それは子供が友達と呼べる人達が待っている所に。

 距離は五十メートルも離れていない。芝生広がる場所で、子供達は大人数でサッカーをしていた。

 賑やかに走り回り、楽しそうに騒いで。それを少年は羨ましそうに眺め、寂しそうに目を背けた。


 ――――少年はいつも一人ぼっちだった。


 子供達からは仲間外れにされ、友達の輪にも入れず、大人達からも気味悪がられて。

 誰も話し掛けず、相手にせず。少年の事を呼ぶのはご飯の時ぐらいだけ。あとは皆が皆、無視して相手にしない。

 だから、少年は空を仰ぐ。誰も居ない、何も無い。真っ青な空を。

 空を見ていれば何も見えない。見ないで済む。見たくないものを目に入れなくて、済む。

 少年が周りに毛嫌いされるのには、理由がある。


 前からずっと、気付けばずっと。少年には人に見えぬモノが見えていた。見えるだけじゃない。聞こえ、触れる事だってある。

 人成らざるモノ。人とは違う存在。かつては人だったモノ、元から人ではなかったモノ。

 とても不確かで、曖昧で、不気味なそれは。自分を認識する者を好み、誘い、取り憑く。

 そして今日も、少年は()(まと)われる。近づき、声を掛けられ、手招くソレは。


 “幽霊”と呼ばれるものだった。


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