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      寿司 ‐オドシ‐ 参

『で、そろそろ本題に入るんだけどさ』

「なんだ?」

『今からお前ん家に行くから泊まりで遊ぼうぜ。って言うか、既に向かっててもう着くんだけど』

「……はぁ!?」


 太一が言っている事を理解するのに数秒の間を空け、供助は素っ頓狂な声を上げた。


『いやぁ、時間が時間だし、祥太郎も電車で帰るの面倒だって言うし。明日は文化祭準備が無いからさ』

「いきなり過ぎんだろっ!」

『でも最近、お前の家で集まってなかっただろ? 久々に夜通し遊ぼうぜ。この時間に起きてるって事はバイト無いんだろ?』

「いやまぁ、無いけどよ……」

『んじゃ行くからなー。食料ももう買ったから』

「ちょっと待てっての、今日はあんま乗り気じゃ……」

『散らかってても今更気にしないって。あとちょっとで着くぞ。って言うか着いた』

「早いなオイ!」

『電話しながら歩いてたからなー。私メリーさん、今あなたの家の前に居るの』


 携帯電話の向こうから聞こえる太一の声と同時に、家の呼び鈴が鳴った。


「マジかよっ!?」


 供助が走って居間の戸から廊下に顔を出して玄関を見ると、確かに玄関の磨りガラスに人影が映っている。どうやら太一達が来たのは本当らしい。

 困る。非常に困ると、いつも怠惰感を丸出しの供助が珍しく焦っていた。

 友人である太一と祥太郎には、供助が霊感がある事や払い屋の仕事をしている事を秘密にしている。となると当然、隠さなければならないモノがある。いや、居る。

 供助は振り返り、その隠さなければならないモノへと視線をやった。


「んむ?」


 そこには口一杯にご飯をかっ込み、頬っぺをまん丸に膨らませている悩みの種が居た。

 思わず頭を抱える供助。急かすように鳴る呼び鈴。迫る時間と選択。


「供助の友人なのだろう? 入れてやればいいではないか。私は気にせん」

「お前が気にしなくても俺がすんだよ……」


 猫耳と二本の尻尾を妖気で隠せば人間として通せるが、問題はそこじゃない。

 猫又は中身に問題があるが、黙って大人しくしていれば美人の類に入る。年頃の学生の家に同棲する美女。これを知られたら面倒な事になってしまう。

 太一達は口が固いから言いふらされる事は無いだろうが、同居している経緯や理由をどう誤魔化すかが面倒かつ大変なのである。

 何より二人が同居している事を知れば面白がり、さらに供助の家に入り浸ってしまう可能性が高い。

 悩んでいる間にも忙しなく鳴る呼び鈴。供助は悩む時間も無い中、ど安定の選択を取る事にした。


「猫又、二階の俺の部屋に隠れてろ」

「む? 供助の部屋にかの?」

「理由は解んだろ」

「まぁの」

「パソコンや漫画があるから暇はしねぇだろ。俺のダチが帰るまで頼む」

「しょうがないのぅ。どれ、では移動する……」


 供助の心情を察し、食べかけの弁当を持って立ち上がる。

 そのとき猫又に、電流走る! 圧倒的閃き、悪魔的思考――――!


「どした、猫又? 早く二階に……」

「供助」

「あん?」

「私、寿司が食べたいのぅ?」


 にっこりと満面の笑みで、猫又は供助にお願いする。

 猫又は可愛らしい笑顔で言ったつもりだったが、供助にとっては笑顔には見えなかった。

 細目で眉間に陰りを作り、三日月のように吊り上げた唇。もはやそれはゲス笑いそのものだった。


「はぁ!? ふざけんな、んな豪華なモン食える余裕なんか……」

「そうか。さて、テレビでも見ながらゆっくり弁当でも食うかの」

「こんの糞猫、脅すつもりか……!」

「え? 脅すってなぁに? 私はお寿司を食べたいって言っただけだの?」

「何度も言ってんだろ、寿司なんて無理……」

「あ、昨夜依頼があって見れないから録画していた深夜アニメでも見ようかの」


 猫又は再度座り、テーブルに置いてあったテレビのリモコンをいじり始める。


「だぁぁぁぁ、クソッ! わあったよ、今度の依頼で金が入ったら食わせてやる!」

「本当かのっ!?」

「本当だから頼む、早く二階に……」

「ひゃっほーい! 寿っ司、寿っ司ぃ! 絶対だからの、約束だからの!?」

「あぁ、約束するから早くしてくれ」

「うむ、ではの! 寿っ司っ食いっねぇー! だのーぅ!」


 目をキランキランに輝かせ、騒がしく二階に上がっていく猫又。予想外の出費が確約され、供助は項垂れ額に手をやる。

 寿司が約束されてテンションが上がっていても、ちゃっかり弁当まで持って行っている辺り猫又の食い意地にも呆れてしまう。

 悩みの種かつ騒音の原因が退場して一気に静かになる。呆れと疲れと脱力感に、供助は大きな溜め息を吐かずにはいられなかった。

 そして、静かになった居間に響くは――――。


 ピンポピンポピンポピピンポーン


 友達が連打する、呼び鈴の音だった。


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