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第四十三話 寿司 ‐オドシ‐ 壱

「さ、遅い夕飯を摂ろうかの。供助、私はのり弁だからの」

「あん? のり弁は一個しか無ぇんだ、俺のだっての。お前は猫らしく魚が入ってる鮭弁食ってろ」

「のり弁にしか磯辺揚げが入っておらんではないか! 私は磯辺揚げが食べたいんだの!」

「何を言っても譲らねぇ。伸びてスープが無くなったカップラーメンじゃねぇだけ有り難いと思え」

「じゃあジャンケン! ジャンケンで勝負だの!」

「断る」

「あれだろう、私とジャンケンして負けるのが怖いのかの?」

「んな漫画みてぇな安い挑発に乗るかよ」


 先程までの静かでシリアスな雰囲気はどこへ行ったのか。気付けばいつものくだらないやり取り。いや、本人達にとっては真面目な事であるが。

 供助の家に騒がしさが戻り、外から聞こえていた夏虫の鳴き声もかき消してしまう。

 居間に戻ってもまだ猫又は引き下がらずにのり弁を求め、それを供助が拒んでもう一騒ぎ。居間の掃き出し戸に付けられて風に揺れる風鈴の音も、供助と猫又の声で聞こえやしない。

 口論すること約十分。結果は供助が勝ち、猫又は渋々諦めて鮭弁が夕飯になった。


「磯辺揚げ……」

「欲しがってもやらねぇぞ」


 人差し指を咥えて物欲しげな眼差しを送る猫又。

 それを鬱陶しそうにして、供助は自分ののり弁を猫又から遠ざけた。


「しっかし、毎日毎日飽きずに半額弁当……」

「間違えんな。飽きずにじゃねぇ、飽きても半額弁当だ」

「たまには贅沢してもバチは当たらんと思うがの?」

「俺だって出来るんモンなら贅沢してぇよ。出来ねぇからこうして節約してんだろうが」

「スーパーで売ってた刺身も良いが、やっぱり寿司が食いたいのぅ」

「鮭弁の鮭を炙りサーモンと思って我慢すんだな」

「マグロ、イクラ、ウニ、ホタテ……イカやエンガワもいいのぅ」

「黙って食え。食いモンがあるだけ有り難ぇんだ」


 供助は割り箸を口に咥え、弁当を包装していたビニールをビリビリと破いていく。

 もうどれだけ刺身や寿司を口にしていないか。猫又が寿司ネタを口にする度、供助の頭にも油が乗った美味そうな寿司が思い浮かぶ。

 しかし悲しいかな、今ある食料は半額弁当のみである。無い物ねだりをしても無い物は無い訳で、ただ虚しくなるだけ。


「のぅ、供助。明日はパーっと寿司にせんか、寿司に! 出来れば酒も……」

「却下、ウチの家計にそんは余裕はねぇ。諦めろ」

「のぅ供助ぇ、いいではないかぁ。ちょっとくらい贅沢してもー」

「今日だってタダ働き同然の仕事だったからな。儲けがなきゃ贅沢が出来る訳ねぇだろ」

「寿司ぃ……食いたいのーぅ」

「友恵から金を受け取ってりゃ、今頃は寿司を食えてたんだろうけどな」

「ふむ……やっぱり今からでも貰えたりせんかの?」

「おい。俺が金を受け取ると思ってキレてたのはどいつだよ?」

「冗談だの、冗談」


 てへぺろ、と舌を出してウインクする猫又。供助は口から手に持った割り箸を横に割ってしまいそうな程、強く握る。

 これ程ブン殴りたいと思った妖怪は初めてだった。


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