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      仇敵 ‐キョウツウテン‐ 参

「……聞かねぇのか。なんで両親が人喰いに喰われたか、をよ」

「聞かん。興味が全く無い……とは言い切れんが、私は猫であっても好奇心だけで生きている訳ではないからの。どうしても聞いて欲しいと言うならば聞いてやるが」


 正直、人喰いの話には多少の興味があった。だが、猫で妖怪と言えど、猫又にもある程度のモラルは持っている。

 聞いていい話と聞かない方がいい話、それ位の判断はつく。


「その場合は酒と刺身を用意してもらおうかの」

「はっ、残念。酒の肴にゃ合わねぇ話だ」

「ふむ。しかし、話は合わなくとも刺身は酒に合うぞ?」

「そっちは合う合わねぇ別で買う金が無ぇ」


 小さな笑みを浮かべ、供助はわざとらしく肩を竦め。それに合わせるように、猫又もまた唇を緩ませた。

 そして、おもむろに。着物の袖に手を入れて腕を組む猫又は。緩ませていた口元を引き締め、僅かに顎を落として口を開いた。


「――――私もな、喰われた」


 無表情……いや、内心にある感情を押し殺して平常を装い。

 猫又は淡々とした口調で言葉を発した。


「共喰いが友を喰ったのだ。生きたままな」


 閉じた口の奥で、奥歯を強く噛み締める。

 怒り、悲しみ、憎しみ、憐れみ。様々な感情が渦を巻き、心の中で混ざり合う。

 細く微かに開けられた目。視線を落として青白い畳の網目を見つめ、猫又は過去を思う。二十年以上も前の出来事を、忘れもしないあの日の事を。

 友の血を啜り、骨をしゃぶり、肉を咀嚼する奴の姿。手を真っ赤にさせて、血が滴る口を大きく歪ませて狂笑う――――金色の髪をした妖怪。狐の妖。


「前は共喰いを探している理由を話そうとしなかったってのに、どういう風の吹き回しだ?」

「なに、ちょいとな。供助の話を聞いて、私も話さなくては公平ではないと思った。それだけだの」

「……互いに恨み辛みを持って生きている、か。それも二人揃って仇討ちたぁ、嬉しくもねぇ共通点だ」

「人を呪わば穴二つ、と言うが……妖怪相手ではどうなのだろうの」

「要らねぇよ、てめぇが入る穴なんかよ。要るのは仇を討ったってぇ吉報と、墓前に添える花で十分だ」

「ふふっ、そうだの。自分まで墓穴に入ってしまっては墓参りも出来ん」


 無表情に近い真剣な面持ちだった猫又に、再び小さな笑みが零れた。


「居間に戻るか。腹減って死にそうだ」

「墓穴は要らんと言った次の台詞が死にそうだとは、矛盾してるの」

「うっせ。お前ぇと違って俺は今日なにも食ってねぇんだ」


 供助は横目で猫又を見ながら立ち上がる。

 縁側から差し込む月明かりで影を作り、居間に戻ろうと仏間から廊下へと出た。


「……よいのか?」

「あ? 何をだ?」

「共喰いの話、詳しく聞かなくての」


 供助は肩越しに顔だけを向けて、猫又は座ったまま話す。


「俺は人食いを探している理由を言った。お前は共喰いを追っている理由を話した」

「……気にならんのか?」

「別に。それにこれ以上話したら、お前が言う公平とやらが公平じゃなくなるだろ」


 そして、供助は小さな含み笑いを見せる。

 猫又とは違い、供助は特に共喰いへの興味も関心も特に持っていなかった。

 自分は自分で、他は他。面倒事が嫌いで面倒臭がりの供助は、他人に興味を持つ事は殆んど無い。

 周りが騒ぎ盛り上がっていても、自分が乗り気でなければ無関心。今、学校では文化祭の準備で忙しいのに第三者のような態度を取っているのがいい例だろう。

 良く言えば周りに流されない。悪く言えば協調性が無い。


「ま、どうしても聞いて欲しいってんなら、飯を食いながら聞いてやるけどよ」

「ふん、止めておこう。折角の夕飯を不味くしとうないからの」

「そりゃ良かった。飯は美味く食いてぇし、なにより俺は長話を聞くのは苦手だ」

「私も自分語りというのはどうも苦手での。口を動かすなら御飯を食べる方が何倍もマシだの」


 そんないつもの調子の供助。口が悪く、皮肉を言い、遠回しな気遣い。

 供助の不器用さ、素直じゃない捻くれた性格。猫又はおかしくて自然と唇を吊り上げ。

 供助の後ろを付いていって、猫又も居間へと戻っていった。


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