只今 ‐オカエリ‐ 参
※ ※ ※
スーパーの帰り。目的の弁当も明日の分まで買えて、あとは帰るだけ。
時間も夜の十時を過ぎているだけあって、駅前でもない限り人気は殆んど無い。電柱の上に設置された明かりに、灯蛾が数匹群がっていた。
「はーっ、今日は色々あって疲れたのぅ」
「全くだ。ひとっ風呂浴びてさっぱりしてぇ」
歩きながら背伸びしたあと、だらんと脱力して腕を降ろす猫又。
九月半ばでも未だ残暑があり、夜でも温度がある日も少なくない。今夜もその例外ではなく、歩いているだけで額に薄らと汗が滲む。
「友恵の依頼だけでなく、祓い屋とも遭遇……なにかどっと疲れたの」
「俺ぁスーパーでお前に騒がれたのが一番疲れたっつの」
「とりあえずお疲れ様、だの。色々あったが無事、友恵の家に安寧が訪れた」
「あん……なに?」
「あんねい、だの。分かり易く言えば穏やかな日常が戻った、という事だの」
「だったら最初から分かり易い方で言っとけっての」
「すまんの。疲れで供助が馬鹿であった事を忘れてしまっておった」
「けっ、十分元気じゃねぇか」
顎をしゃくれさせ、猫又を見やる供助。疲れたと言いながら軽口を言う猫又に対し、供助は怠そうに返した。
供助の場合は疲れて言い返す体力が無い訳でなく、ただ単にこれ以上相手するのが面倒臭いだけだが。
「のう、供助」
「なんだよ?」
「友恵の依頼……初めから金を受け取る気は無かったのであろう?」
「あん? 金は欲しいに決まってるだろ。懐が暖かかったらこうして半額弁当を買う生活をしないで済むんだからよ」
「全く、本当に素直でないのぅ」
「うっせぇ」
「素直になれば変に回りくどいやり方をする必要もなかろうに」
「よく言うぜ。お前だって公園で友恵の事に気付いたのに、俺に会わせようと黙っていたクセによ」
「ぬ、気付いておったのか」
「そりゃな。鼻が良いお前が気付かねぇ筈がねぇ」
供助達が公園で友恵の依頼を受けたあの日。猫又がドクターペッパーを飲む為に公園へ寄り、そこで友恵と再会した。
その時、実は猫又は友恵が公園に近付いている事に気付いていたのだ。だが、それを供助に教えれば面倒臭がって帰ると思い、黙っていた。
尤も、友恵が公園に来たのは本当に偶然であったが。
「しかし、私もまだまだだの」
「あ? 何がだよ?」
「人を見る目が、だの。供助という人間の上っ面しか見て無かった」
「何言ってんだ、俺は上っ面だけで中身なんて無ぇ人間だよ」
「本当に中身が無い人間だったなら、今頃は既に見限ってるの」
「見限るも何も、友恵の依頼が終わったんだから俺とのタッグは解消すんだろ?」
「ぬっ、そういえばそんな話があったのぅ……」
猫又は少し気まずそうな顔をし、人差し指で頬を掻く。
供助の意図に気付けず、勘違いから供助を嫌悪してしまい、猫又は供助との手組みを続けられないと解消の意を唱えた。
まぁ、そういう風に思わせてしまうような言動を取った供助にも原因はあるのだが。
だが、今では猫又には供助に対する嫌悪も無くなり、タッグを解消する理由が無くなった。




