只今 ‐オカエリ‐ 弐
供助は後頭部を掻き毟り、少しばかり落胆の色を見せて物色を始める。
残っていたのは鮭弁、のり弁、幕の内弁当。とまぁ、似たような物ばかり。運が良ければカツ丼や天丼、鳥そぼろ弁当など、心持ち豪華な物が残っている時がある。
まぁ、今日は遅く来て数があるだけまだ良かったと言えよう。何も無かったら、本当に伸びきったカップラーメンを夕飯にしていた可能性もあった。
「とりあえず六つだな。明日の分も買わねぇと」
今日の夕飯だけでなく、明日の朝昼の分も買っておく。
賞味期限は今日までとなっているが、冷蔵庫に入れておけば一日くらいどうって事はない。
消費期限じゃない限りはまず大丈夫である。
「おい、猫又。同じようなのしかねぇけど別にいい……って、どこ行きやがったあの駄猫は」
ほんの少し目を離した隙に姿を消した連れ人。いや、連れ人と言うか連れ猫と言うか何と言うか。
もう本当に大人しくしてくれと辟易する供助。さっき食らわせた拳骨は大して意味を成さなかったらしい。
どこに行ったのかと辺りを見回すと、少し離れた先から駆け足でやってくる猫又を見付けた。そして、供助は猫又が何かを右手に持っているのに気付く。
その様子を例えるなら、一緒に買い物へ来た子供がお目当てのお菓子を発見した子供とでも言おうか。
「供助、供助! 私これ、これがいいの!」
「これって何だよ?」
「黒糖油揚げいなりっ!」
「……げっ、八個入りで五百九十八円!? 却下、高い」
「こーれーがーいーいー! いなりいなり! いなり! いなり! コクトーいなり!」
「あーもう、ナリナリうっせぇな! てめぇは大百科の発明品かっ!?」
「いなりがいいナリ!」
「乗ってくんじゃねぇよ!」
猫又が持ってきたのは、いなり寿司。いなり寿司なのに予想外の値段に、供助の声が少しだけ裏返った。
普通の寿司ならともかく、いなり寿司でこの値段は少し高い。しかも、半額じゃないときた。
供助は即答で諦めるように猫又に言う。
「それを一つ買うだけで半額の弁当が三つも買えんだ。諦めろ」
「ぬぅぅぅ……こんなにも美味しそうなのにのぅ」
「美味そうかどうかより腹が膨れるかどうかだ。元あった所に戻してこい」
供助は猫又の返事を待たず、弁当を持ってレジへと向かう。
「ったく、やっぱ外で待たせとくんだった」
背中を丸め、目は半目。供助は疲れた様子で愚痴る。
依頼を終わらせた帰りで疲労もあり、自分から受け取らなかったとは言え、報酬はほぼ無し。むしろ、この弁当代で財布が軽くなる。
だが、今回は報酬は無くとも得るものはあった。それは、子泣き爺が鈴の音を聞いていた事。
供助が昔から聞いていた鈴の音と同じものかは解らないが、鈴の音を聞いた事がある妖怪に会ったのは初めてだった。
それに、子泣き爺は『鈴の音に誘われて』と言っていた。つまり、子泣き爺が聞いていた鈴の音は妖怪を招き寄せるものだったとも考えられる。
なら、子泣き爺と同じく鈴の音を聞いている妖怪が他にも居るかもしれない。依頼で妖怪に会う度に聞く事が増えたな、と。供助は心の中で呟いた。
まぁ色々と考える事があるが、とりあえず早く家に帰って飯を食いたい。供助は弁当を会計しようと、レジに並んで財布を取り出した。
「供助、ピザポテチの新作が出ておったの!」
「戻してこーい!」




