報酬 ‐ニマンエン‐ 弐
「あ、よかった! まだ居た!」
ガチャ、と。扉が開く音。
供助と猫又が玄関に目を向けると、少し開けられた扉の隙間から友恵が顔を出していた。供助達がまだ居た事を確かめ、大きめのサンダルを履いて駆け寄ってくる。
「うむ? どうかしたかの、友恵」
「忘れ物! はい、これっ!」
友恵は供助の前で止まり、小さな両手で差し出すはカラフルな袋。袋の大きさはテレフォンカードくらい。よく見ると袋には可愛らしいキャラクターが描かれていている。
袋のキャラクターには見覚えは無いが、供助は何の袋かはすぐに解った。それは世に言う、お年玉などを入れるポチ袋。
「お父さんとお母さんを助けてくれてありがとう! お礼のお金だよ!」
満面の笑顔をさせて。友恵は厚みを帯びたポチ袋を、依頼の報酬として持ってきたのだ。
「忘れられてんのかと思ってたっての」
「前に言った通り、二万円入ってるよ」
「おう」
なんの抵抗も後ろめたさも見せず、友恵からポチ袋を受け取る供助。
それを猫又は、幼い子供から二万円という大金を何の躊躇いも無く、本当に受け取った供助が信じられないと唖然と眺めていた。
だが、眺めていたのも数秒。すぐに感情は怒りで埋め尽くされる。
「供助ッ! 貴様、本当に受け取るのかッ!」
「あん? なんだよ、依頼は無事成功させたんだ。報酬を受け取っても問題は無ぇだろ?」
「大いに有る!」
「どこに問題があんだよ?」
「人としてだのッ!」
物凄い剣幕を張り、供助の胸ぐらを掴む猫又。
今にも殴り掛かりそうな勢いであったが、友恵が居る前では必死に堪える。
「け、喧嘩しちゃダメだよっ!」
「しかしの、友恵……」
「いいんだよ、猫又お姉ちゃん。供助お兄ちゃんは約束を守って妖怪を退治してくれたんだもん。少ないけど、これが私が出来る精一杯のお礼だから」
「……本当によいのか? せっかく友恵の祖父母がくれたお小遣いであろう?」
「いーの! 私が私の為に使ったんだもん!」
「良い子だの。本当に友恵は……良い子だ」
供助の胸ぐらから手を離し、猫又は友恵の頭を撫でる。
友恵の優しさ、健気さ、純粋さ。猫又の頭に昇っていた血も下がり、友恵の笑顔に釣られて自分も微笑む。
「ほらよ、友恵がこう言ってんだ。問題も文句も無ぇだろ?」
「腐った人間だの、お前は……!」
「おう、腐っても人間だ。食ってかなきゃ生きていけねぇ」
しかし、相変わらずの供助に対しては。怒りを通り越し呆れ、さらに呆れを通り越して怒りに戻ってくる。
供助と友恵。人間性にこうも差が出ると、本当に同じ人間なのか疑ってしまう。
「ひぃふぅみぃ……」
睥睨する猫又の視線など気にもせず。供助はポチ袋の中身を数える。
袋の中身は諭吉が二枚あるのではなく、千円札が何枚も入っていた。
小学生がお年玉や小遣いで一万円札を貰う事など滅多に無い。今まで貰ってきた分を少しずづ少しずづ貯めていたのだろう。
「んし、ちゃんと二万円あるな」
「ごめんね、千円札ばっかりで……」
「金には変わりねぇ」
折れてても、汚くても、細かくても。お金はお金。飯が買えれば問題無い。
何枚もある千円札を折って、数え終わったお金を袋に戻す。
「んじゃ、有り難く頂く」




